低電圧指令(2014/35/EU)の概要とCEマーキング実務:技術者が知るべきポイント

CEマーキング

欧州連合(EU)市場で電気機器を販売する際、製品が低電圧電気機器に該当する場合、低電圧指令(Low Voltage Directive, LVD:2014/35/EU)が適用されます。この指令は、消費者および事業者の安全を確保するため、欧州内で流通する電気機器の基本的な安全要求事項を定めています。

低電圧指令の対象となる機器は、交流電圧で50~1,000 V、直流電圧で75~1,500 Vの定格で使用するよう設計された機器です。対象製品には、家庭用電化製品、情報技術機器(PCやサーバー)、音響・映像機器、事務機器、低電圧の開閉装置・制御装置、電動機などが含まれます。


低電圧指令の目的と法的背景

低電圧指令は、欧州市場に流通する電気機器の安全性を最高レベルで確保することを目的として、2014年3月29日に発効しました。製品の安全確保は単に事故防止にとどまらず、企業の信頼性維持や法的リスク回避の観点からも重要です。

また、機械指令(2006/42/ECなど)に該当する製品の場合、低電圧指令は重複して自己宣言に記載すべきではありません。これは機械指令の除外規定(第1条(2)(k))により、重複記載が不適切とされるためです。ただし、実際の製品安全を確保するためには、機械安全と電気安全の両方を確認することが望まれます。


適合性評価の手順

低電圧指令では、認証機関(ノーティファイドボディ)の関与なしに、製造者自身が適合性評価を行う自己宣言方式が基本です。評価手順は指令付属書IIIに詳細が規定されており、内部生産管理を通じて安全要件への適合性を確認します。

2-1. EU適合宣言書(Declaration of Conformity, DoC)

付属書IVにより、EU適合宣言書には次の情報が含まれる必要があります。

  • 製品モデル、タイプ、バッチ、シリアル番号などの製品識別情報
  • 製造者または正式代理人の名称・住所
  • 宣言の目的(トレーサビリティを可能にする電気機器の識別)
  • 適用される整合規格(EN規格など)の参照、または規格を用いない場合は適合性を示す技術仕様
  • 署名および発行日

この宣言書は、製造者単独の責任で作成されます。製品がCEマーク対象の他の指令にも該当する場合、DoCはすべての関連指令への適合性を示す必要があります。


2-2. 技術文書(Technical Documentation)

低電圧指令の適合性評価では、技術文書の作成が義務付けられています。技術文書には、製品の設計・製造・操作に関する情報を整理し、指令の安全要求への適合性を証明できる内容を含める必要があります。

技術文書に含める主な項目

  1. 製品の一般的説明
    製品用途、機能、構造の概要など。
  2. 基本設計・回路図・部品構成
    設計図、製造関連図面、回路図、部品表など。
  3. 操作説明・理解の補助資料
    図面や構成の理解、製品操作に必要な情報。
  4. 適合証明に使用した規格一覧
    使用したEN規格やその他技術仕様。規格を使用しない場合は、その方法や理由を明示。
  5. 設計計算結果および試験データ
    実施した試験や計算結果の詳細。安全性評価の根拠。
  6. 試験レポート
    各種試験の実施結果、評価内容を記録。

文書化のポイント

  • 文書はEU公用語(通常は英語)で作成。
  • 形式にこだわるよりも、当局や裁判所の担当者が理解できる明瞭な記述が重要。
  • 技術文書は製品の市場投入後10年間保管する必要があります。

CEマーキングの実務的対応

CEマーキングは、製品が低電圧指令の安全要求に適合していることを示す最も重要な証拠です。適合性評価完了後、製品にCEマークを表示し、DoCを添付して市場に出荷します。

  • CEマークは、単に印字するだけでなく、適合宣言書(DoC)と技術文書に基づいた正当な手続きの結果であることが求められます。
  • 他の指令(機械指令、EMC指令など)にも適合する場合、CEマーキングはすべての関連指令をカバーすることを示す必要があります。

実務で押さえるべきポイント

  1. 対象電圧の確認
    交流50~1,000 V、直流75~1,500 Vを超える製品はLVD対象外。逆にこれに該当する場合は必ず評価。
  2. 整合規格の活用
    EN規格を参照して試験や設計を行うと、指令要件への適合性を効率的に証明可能。
  3. 自己宣言の正確性
    機械指令と重複しないようにDoCを作成。誤記や漏れは認証機関から指摘される。
  4. 技術文書の明瞭化
    当局要求時に迅速に提出可能な状態に。形式よりも理解可能性と証拠性を重視。
  5. CEマーキングの適切な表示
    CEマークの大きさ、位置、耐久性を指令に従い表示。表示だけではなく、適合宣言に基づく正当性が重要。

まとめ

低電圧指令(2014/35/EU)は、EU市場で販売する電気機器に対し、安全性の確保と適合性評価の文書化を義務付ける重要な規制です。技術者は、以下を意識することが求められます。

  • 製品が低電圧指令対象かを正確に判定
  • EU適合宣言(DoC)の作成とCEマーキングの実施
  • 技術文書の作成・保管(設計、試験、使用規格の記録)
  • 整合規格や自己評価手順の活用による効率的な適合性証明

これらの実務対応を徹底することで、市場リスクの低減と製品信頼性の向上を同時に実現できます。特に設計・製造に携わる技術者は、低電圧指令の要求事項を理解し、日々の開発プロセスに組み込むことが重要です。

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