認証機関(ノーティファイドボディ)の関与があるかどうかが、「自己認証」と「第三者認証」を区別する最大のポイントです。そして重要なのは、いずれの方法を選んだ場合でも、最終的にEU適合宣言書(DoC: Declaration of Conformity)を作成するのは製造者自身であるという点です。これが俗に「適合宣言」と呼ばれる仕組みであり、CEマーキング制度の根幹をなしています。
自己認証(Self Assessment / Self Certification)とは?
自己認証は、製造者自身が製品のリスクアセスメントや試験、技術文書の整備を行い、その上でEU適合宣言を行う方法です。代表的なのが モジュールA(内部生産管理) と呼ばれるルートで、製造者が指令や整合規格を満たしていると自ら確認し、CEマーキングを表示できます。
例えば次の指令では、製品の仕様によっては自己認証で対応できる場合が多くあります:
- 機械指令(Machinery Directive)
- 低電圧指令(Low Voltage Directive, LVD)
- EMC指令(Electromagnetic Compatibility Directive)
- 無線機器指令(RED: Radio Equipment Directive)
- RoHS指令(Restriction of Hazardous Substances)
実際、CEマーキングが必要な製品の多くは自己認証で対応可能とされています。
実務的なメリットは次のとおりです:
- 認証機関への審査依頼が不要なため、コストを抑えられる
- 製品開発から市場投入までのスピードを確保しやすい
- 社内で技術力と規格知識があれば、自立的なコンプライアンス体制を築ける
ただし注意点として、自己認証でも全責任は製造者が負うことに変わりはありません。適合性確認や技術文書の整備が不十分であると、市場監視当局(各国の規制当局)から指摘や罰則を受ける可能性があります。
第三者認証(Third Party Assessment / Certification)とは?
一方、リスクの高い製品や複雑な指令においては、製造者が自ら適合性評価を行うだけでは不十分とされ、欧州委員会に指定された 認証機関(Notified Body, NB) の関与が義務付けられます。これが第三者認証です。
代表的な例として:
- 医療機器規則(MDR)
- 防爆機器指令(ATEX Directive)
- 圧力機器指令(PED)
- 一部の無線機器指令の対象製品
これらの場合、製造者はノーティファイドボディに製品や技術文書を提出し、型式審査や製造品質保証の監査を受けます。審査に通った後、最終的には製造者自身がEU適合宣言を発行します。
実務者が気をつけるべきポイント:
- コストが高い(試験費用に加え、審査費・証明費・管理費などが発生)
- 期間が長い(ノーティファイドボディのスケジュールに依存し、数か月~半年以上かかるケースも)
- 責任は依然として製造者に残る(不適合が発覚した場合、ノーティファイドボディは免責され、製造者が責任を負う)
つまり、第三者認証は「お墨付き」をもらう仕組みではなく、リスクの高い製品の安全性を公的に検証する手続きと理解するのが正しいでしょう。
自己宣言(Self Declaration)とは?
CEマーキング制度において「自己宣言」という用語は公式には存在しません。適合宣言書(DoC)を作成できるのは製造者または欧州域内の委任代理人のみであり、第三者機関が代わりに宣言することはできません。
そのため、あえて「自己」という言葉を付けるのは不自然で、正しくは「EU適合宣言(Declaration of Conformity)」と呼ばれます。ただし実務上は、自己認証の結果として製造者が宣言書を作成することを「自己宣言」と呼ぶケースが多く、俗称的に広まっています。
UKCAにおける自己宣言
Brexit後に導入された英国独自のマーク「UKCA」では、公式ガイドの中で「Self-declaration」という表現が使われています。これは「第三者認証」ではなく「自己認証による適合宣言」を意味するもので、一般の技術者にとって理解しやすい表現として用いられています。
実務での応用と注意点
- どのルートを選ぶかの判断
- 製品がどの指令に該当するかを特定し、その指令の適合性評価モジュールを確認する。
- モジュールAが適用できれば自己認証可能。リスクの高い製品では第三者認証が必須。
- 技術文書(Technical File)の整備
- 製品仕様書、設計図、リスクアセスメント、試験レポートなどを体系的にまとめる。
- 市場監視当局からの要求に備え、原則10年間保管が必要[注:指令によっては保管期間が異なる場合あり。例:医療機器関連規制では別途の規定がある]。
- 社内体制の重要性
- 規格知識を持つ人材を育成し、適合性確認を自社で完結できる体制を作ることが競争力になる。
- 認証コストを外部に依存しすぎると、製品投入スピードが落ちるリスクがある。
まとめ
- 自己認証:ノーティファイドボディの関与なし。モジュールA(内部生産管理)が中心。多くの製品がこれで対応可能。
- 第三者認証:ノーティファイドボディが関与。リスクが高い製品で必須。コスト・期間が増すが責任は製造者に残る。
- 自己宣言:正式用語ではないが、自己認証の結果としてDoCを製造者が発行することを指す俗称。
いずれの方法を選んでも、最終責任は常に製造者にあるという点が最重要です。CEマーキングは単なるラベルではなく、欧州市場で販売するための「製造者の責任の証明」であることを忘れてはいけません。
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