EMC指令とは

1. EMC指令とは何か(目的と基本)

EMC指令は「製品が自ら有害な電磁波を出して他機器の正常な使用を妨げないこと」と「外来の電磁妨害の下でも、通常想定される環境で安全かつ正常に動作すること」を求めます。指令は2014年に再編(2014/30/EU)され、EU統一市場での電磁環境両立性(機器間の干渉防止)を目的としています。

重要ポイント

  • 「放出(emission)」と「耐性(immunity)」の両面で基準を満たす必要があります。
  • 対象は「機器(apparatus)」「システム」「設置(installations)」まで含め幅広い。製造者は対象か否かをまず判断する必要があります。

2. 適用範囲と除外

適用範囲

  • 一般的な電気・電子機器(工業機器、民生機器、組込モジュール、装置など)に適用されます。製品群はリビングルーム規模から大規模設備までカバーします。

主な除外・特記事項

  • 無線機器(Radio equipment)は通常RED(Directive 2014/53/EU)の対象であり、EMC指令の適用は基本的に除外されます。REDはEMC要件も包含し、無線特有の要求(スペクトラム使用等)を含みます。
  • 指令には「inherently benign devices(電磁妨害の発生や影響が無視できる機器)」の例外もあり(例:単純なケーブル、電池、パッシブアンテナ等)、個別判断が必要です。

3. 基本的要件(Annex I)と「適合の推定」

  • 指令付属書Iには基本的要件(essential requirements)が列挙されています。これには放射限度や耐性レベルの目的・状況、設計上の配慮事項などが含まれます。製造者はこれに適合するよう設計・試験を行う必要があります。
  • ハーモナイズド(整合)規格を適用すれば、その規格に準拠することで該当する指令要件を満たしたと「推定」されます(presumption of conformity)。そのため、多くの事業者は関連EN標準に従った試験を行い、試験レポートを技術文書にまとめます。

4. 適合性評価(モジュール)とノーティファイドボディの関与

モジュールの概要

  • EMC指令は自己宣言(Module A:Internal production control)が可能で、製造者が技術文書と試験結果に基づきEU適合宣言(DoC)を作成します。ノーティファイドボディ(NB)の介入は必須ではありません。
  • ただし、EUタイプ試験(Module B)等、NBによる型式審査を選ぶ運用もあり、NBの関与がある場合は更に強い客観的証拠(型式審査証明など)を持てます。

実務的な現状

  • 理論上は自己宣言で済むものの、EMC試験は専門設備が必要であり、製造者が社内で全て行うのは現実的に困難なケースが多いです。結果として第三者試験所やNBを利用するのが実務上一般化しています(試験ラボ → テストレポート → NBへ提示 → DoC作成、という流れ)。

5. EU適合宣言(Declaration of Conformity:DoC)とCE表示

DoC は製造者が発行する法的文書で、通常以下を含みます:

  • 製品識別(型式、シリアル等)
  • 製造者名・住所(及びEU内の代理人がいる場合はその情報)
  • 適合する指令と適用したEN規格の参照(バージョン/日付)
  • 必要ならNBの識別番号(通知番号)と証明書参照
  • 発行日、署名(責任ある者) など。

製造者はDoC作成後、CEマークを製品に付け、付属文書や包装にも表示すべき情報を揃えます。DoCは製品1モデルごとに作成し、他のCE関連指令が該当する場合はそれらへの適合も明記します。


6. 技術文書(Technical file)―― 内容と保管義務

含めるべき主な項目(Annex II/III 等を参考)

  • 製品説明、設計図、回路図、部品表(BOM)
  • 製造・試験プロセス、EMC計画(worst-caseの説明)
  • 試験レポート(EMC試験:放射・伝導、耐性試験)
  • 適用したEN規格とその適合性の説明(試験条件、結果)
  • リスク評価、取扱説明書、マーキング情報
  • EU適合宣言(DoC)コピー、NB証明書(あれば) など。

保管期間と提示義務

  • 保管期間は10年(製品が「市場に出された日(placed on the market)」から起算)と指令本文に明示されています。輸入者は同様に10年間DoCのコピーを保有し、技術文書を要求に応じて提示できる体制を確保する義務があります。これはEMC指令の法文とECガイド(2018/2019のGuide)で確認できます。
    • ※なお、機械指令では「最終製造日起算で10年」といった指令ごとの起算点差があるため、該当指令の本文を確認すること。EMC指令は「placed on the market 起算」の規定である旨もガイダンスで説明されています。

7. 試験とハーモナイズド規格(テスト実務)

  • 放射(emission)テスト伝導(conducted)テストイミュニティ(immunity)テストが基本。EN規格(例:EN 55032 / EN 61000-6-2 等)の適用が想定されます。
  • ハーモナイズド規格に準拠し試験が実施されれば「適合の推定」が得られるため、実務上はまず関連EN規格を特定し、試験条件を整えるのが望ましい。

8. 市場監視(Market Surveillance)と将来動向(最新情報)

  • 市場監視は規則(EU)2019/1020等で強化され、技術文書の提示、違反製品の回収や措置が厳格化されています。EMC遵守も市場監視の対象です。
  • 公式の実務指針であるBlue Guideは改訂が進んでおり(欧州委員会の最近の文書・2025年版関連の発出)、製品規則・適合宣言・技術文書の電子化や提示方法、分野横断的な要件の整合に関する最新の示唆が出ています。市場監視対応と適合性証明の運用は随時チェックが必要です。

9. RED(ラジオ機器指令)との関係・注意点

  • 無線機能を持つ製品はREDの対象になり、REDはEMC要件も含むためRED該当機器はEMC指令の適用対象外となります(ただし設置やシステム全体での電磁環境を扱う場合、並行して関連規則確認が必要)。REDガイドにもEMC適用範囲との関係が説明されています。

10. 実務推奨チェックリスト(導入・設計・出荷前)

  1. 対象該当性判定:EMC指令かREDか、あるいは両方の適用関係を確認。
  2. 適用EN規格の特定:ハーモナイズド規格を確認し、適合の推定を使う計画を立てる。
  3. EMC計画作成:worst-caseの定義、試験条件、評価基準をドキュメント化。
  4. 試験実施:第三者試験所に依頼して放射・伝導・耐性試験を実施、レポートを受領。
  5. 技術文書整備:設計図、BOM、試験レポート、DoC、取説を含める(保管10年)。
  6. DoC作成・CE貼付:DoCにEN規格参照・NB情報(あれば)を記載し、CEマーキングを付ける。
  7. 市場監視対応体制:技術文書を迅速に提示できる電子化とEUアクセス体制(EU代理人やクラウド配備)を用意。

11. よくある誤解(FAQ)

Q1.「EMC指令は全ての電気製品に必ず適用される?」
A1. 多くの電気・電子機器が対象ですが、無線機器(RED対象)や「inherently benign」の例外など個別判断が必要です。

Q2.「自己宣言(Module A)で本当にいいの?」
A2. 法的には可能ですが、試験設備や専門知識の不足、第三者による信頼性確保の観点から、外部試験所やNBの活用が一般的です。

Q3.「DoCと技術文書は何年保管?」
A3. 10年(placed on the market 起算)。輸入者も10年分のDoCコピーを保管する義務があります。


MSDコンサルティング

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