はじめに
EHSR 1.3.6(Risks related to variations in operating conditions) は、機械類が「異なる使用条件(運転条件)」で動作する場合に、それら条件の選択および調整が安全かつ信頼性をもって行えるよう設計・製造されなければならないと定める条項です。条文はMachinery Directive(2006/42/EC)及び新しい Machinery Regulation (EU) 2023/1230 の Annex I に明記されています。
なぜ重要か
運転条件(例:回転数、送り速度、圧力、温度、荷重、工程モードなど)を変更することで、機械の挙動や周囲の危険性が変化します。設計段階でこれらの変更によるリスクを予見せず、単にパラメータ変更を許すと、不意の過負荷や制御逸脱、作業者の置かれる危険状態などを招く可能性があります。EHSR 1.3.6 はこうした事態を未然に防ぐことが目的です。
条文の確定表現
条文の確認可能な要旨は次の通りです(原文趣旨に忠実に要約):
- 機械が異なる使用条件で運転を行う場合、その選択および調整は安全かつ信頼性を持って実行できるように設計・製造しなければならない。
関連規格と参考文献
EHSR 1.3.6 の実装や解釈に役立つ主要な国際規格・ガイダンス(公表概要を確認済み)は以下です。設計・評価時の参照が推奨されます。
- EN ISO 12100 — リスクアセスメントとリスク低減の一般原則。運転条件変更時のリスク評価手順に整合。
- EN ISO 13849-1 / IEC 62061 — 安全関連制御システムの設計と性能評価。運転モード切替時の安全機能評価に使用。
- ISO 14118 — 不意の起動(unexpected/unintended start-up)の防止。電源・モード変更後の安全確保に関連。
- Machinery Regulation (EU) 2023/1230(Annex I)— Directive の後継規則として同趣旨の要求を維持しています。
実務上の設計・運用上の留意点
以下は、条文と上記規格に照らして 確認可能な一般的原則 を整理したものです。具体的な実装は個別機械の用途・リスク評価に依存します。
- モード管理を明確にする
- 「自動」「半自動」「調整/段取り」「点検」など運転モードを明確化し、モード切替が安全に行える表示と物理的/論理的な手段を備えること。モード切替時に不要な機能を無効化すること。
- パラメータ制限(入力ガード)
- 許容範囲外の設定(例:上限を超える回転数や圧力)が入力できないようにし、ソフトウェア上でのリミッティングやハードウェアの制限を検討する。これは誤設定によるリスクを低減する基本策です。
- 安全機能の保持と独立性
- 重要な安全機能(非常停止、安全インターロックなど)は、運転条件変更時にも優先的かつ確実に作動するように設計する。安全回路の冗長化・分離が求められる場合がある(規格の評価手法に整合)。
- 再起動・復帰時の保護
- 電源断やモード切替後の自動再起動は避け、再始動前に安全確認(人の退避やガード閉鎖など)を要する設計とすること(ISO 14118 の趣旨)。
- リスクアセスメントの実施
- EN ISO 12100 に従い、運転条件のバリエーションごとにリスクアセスメントを行い、必要な安全対策を選択・実装すること。
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