はじめに
EHSR(Essential Health and Safety Requirements) 1.3.5「組合せ工程機械類に関連するリスク」 は、1台の機械が複数の工程(加工・仕分け・検査など)を連続して行い、工程間で人が加工物を取り出すような設計(いわゆる「組合せ機械」やライン構成)に適用されます。条文は、各工程(要素)を個別に使用した場合でも、他の要素が露出者に危険を及ぼさないように設計・製造しなければならないと定めています。
1.3.5 組合せ工程機械類に関連するリスク(Risk due to combined machinery)
機械類が異なる複数工程を実行するように意図されており、工程と工程(組合せ機械類)との間で人手により加工物を取り出す場合、他の要素で露座者を危険にさらすことなく、各要素を個別に使用できるよう機械類を設計・製造しなければならない。
この目的のために、防護のない要素についてはいずれも個別に起動・停止できなければならない。
EHSR 1.3.5 の条文(要旨と確認)
条文は次の要旨を含んでいます(要点は条文そのものに基づく確認済み):
- 機械が複数工程を意図しており、工程間で人手によって加工物を取り出す場合、各要素は単独で使用できるように設計されなければならない。
- この目的のために、防護されていない要素は個別に起動・停止できることが求められる(すなわち、露出が発生する状態で他の要素が動作してはならない)。
(この条文は旧Machinery Directive に由来しますが、同趣旨は新しい Machinery Regulation (EU) 2023/1230 の Annex I にも維持されています。規則の導入・完全適用に向けた動きについては公的文書を参照してください)。
何を問題としているか — 実務的観点
組合せ工程機械では、例えば「切削 → 洗浄 → 検査」といった一連の工程を一台で行うことがあり、工程の切替時や中間取り出し時に ある要素が防護を外した状態(露出)で稼働している別要素により作業者が危険にさらされるリスクが存在します。EHSR 1.3.5 はこうした「相互作用による二次的危険」を未然に防ぐための設計ルールを示します。
設計・技術的対策(条文と規格に基づく実務的手法)
以下は、条文の要求を満たすために用いられる、確認可能な一般的対策群です(具体的実装は機械の用途・規模に依存します)。
要素ごとの独立起動・停止機能
- 各工程要素(モジュール)は独立して停止・起動できること。これにより、作業者がある工程で露出状態にして作業中でも、他の工程要素が勝手に稼働して危険を生じさせない。
ゾーニングとインターロック
- 機械を複数の安全ゾーンに分け、ゾーンごとのガードとインターロックを配置する。あるゾーンのガードが開いている間は、そのゾーンに関係する他の要素を含め、危険な動作を禁止するロジックを実装する。ISO 12100 のリスクアセスメント手法と整合する対策です。
操作モードと明確なモード選択
- 「自動運転」「段取り/調整」「手動取り出し」等の運転モードを明確化し、モード切替時に自動的に不要要素を無効化するなどの対策をとる(EHSR 1.2.5 との関連)。モード選択は物理的なスイッチやキーでの制御などで誤操作を防ぐことが推奨されます。
人的介在時の保持・安全機構
- 作業者が工程間でワークを取り出す際に、ワークの位置や周囲の機械部が安定・固定されていることを保証する保持機構やロック機構を設ける。取り出し中に他の運動が発生しないよう物理的・制御的に排除する。
視認性と運用手順の明確化
作業者が現在の機械状態(どの要素が有効か、インターロック状況など)を一目で確認できる表示(ランプ・表示パネル)を設ける。また運用手順・点検手順を文書化し、作業者教育を実施する。
コメント