EHSRとは — 機械指令の基本的な健康と安全の要件

要約(冒頭)

EHSR(Essential Health and Safety Requirements:必須の健康・安全要求事項)は、EU の Machinery Directive(機械指令 2006/42/EC) の付属書 I(Annex I)に示される「機械設計・製造で満たすべき安全要件」の集合です。製造者は、自社機械が EHSR に適合することを技術文書(Technical File)で立証し、適合宣言(DoC)を行うことで CE マーキングの前提を満たします。EHSR の考え方は、設計者がリスクアセスメントを行い、リスクを低減するための体系的な手順に密接に関係しています。

原文:EUR-Lex – 02006L0042-20190726 – EN – EUR-Lex(外部リンク)

EHSR の構成(大枠) — 何が書かれているか

EHSR(Annex I)は大きく次のようなカテゴリで構成されています(概要):

  1. 一般的必須要求事項(Section 1) — すべての機械に共通する基本的な安全要件(設計の一般原則、人間工学、制御信頼性、非常停止、機械的危険、電気その他エネルギー源、温度・火災・爆発の防止、騒音・振動、放射性・有害物質の放出、保守・清掃に関する情報・マーキング等)。
  2. 特定カテゴリ向けの補足要件(Sections 2–5) — 食品・医薬・化粧品向け、手持ち工具、作業機械、移動機械、揚重機械、地下作業用機械、人的揚重に伴う危険など、用途や構造に応じた追加要件。

補足:多くの機械は Section 1 の要求事項を満たすことが基本で、適用される追加要件があればそれらも満たす必要があります。


EHSR とリスクアセスメント(設計プロセス上の位置づけ)

EHSR は「やるべきこと」のリストではありますが、実務では ISO 12100(機械の安全 — 設計の一般原則:リスクアセスメントとリスク低減) に基づいて、次のようなプロセスで実装されます。

  1. 機械の範囲・使用条件(限界)を定義する。
  2. EHSR に照らして可能性のある危険(hazards)を同定する。
  3. 各危険ごとに リスク推定(発生頻度×重大度) を行い、重要なリスクを特定する。
  4. リスク低減方針(優先順位:除去→技術的対策→保護措置→情報提供) を適用して設計を決定する。
  5. 最終的にテクニカルファイル(Risk assessment、設計根拠、適合証拠)を作成する。

この一連の流れが EHSR 準拠の実務的フレームワークです。ISO 12100 はリスク評価・低減の方法論を示す主要な国際規格であり、EHSR 準拠の根拠として設計段階で広く参照されます。


技術文書(Technical File)と適合宣言(DoC)

EHSR に適合していることを示すには、テクニカルファイルの作成が求められます。通常このファイルには次が含まれます(抜粋):

  • 製品仕様・図面・部品表、
  • リスクアセスメント報告書(EHSR に沿った危険源と低減措置の一覧)、
  • 使用した規格(適合規格:EN/ISO 等)のリストと適合状況、
  • 試験・検査記録、
  • 取扱説明書(Instructions for use)、銘板情報、
  • EU 適合宣言書(Declaration of Conformity)。

テクニカルファイルは監督当局の求めに応じて提示できるよう、10 年程度の保管が一般的に推奨されています(国や製品によるが、トレーサビリティ確保が目的)。


主要な関連規格(設計上よく参照されるもの)

  • EN ISO 12100(ISO 12100):リスクアセスメントとリスク低減の手法を示す基本規格。EHSR 対応で最初に参照されることが多い。
  • その他、機能安全(EN ISO 13849、EN IEC 62061)、保護柵(EN ISO 14120)、非常停止(EN ISO 13850)等、対象機械に応じた Type-C 規格群が参照されます。

新しい Machinery Regulation(EU 2023/1230)

  • 2023 年に EU は Regulation (EU) 2023/1230(Machinery Regulation) を採択し、将来的に Directive(指令)方式から Regulation(規則)方式へ移行します。新規則は段階的な移行措置を経て適用されますが、EHSR 相当の要件は継承・強化される点が確認されています。特にサイバーセキュリティやソフトウェア関連の安全、トレーサビリティや経済事業者の義務強化などが注目点です。

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