日本で実績のある産業機械を欧州に初めて輸出する場合、安全審査でCEマーキング不適合の指摘を受けやすいポイントがあります。初回輸出では、過去の事故歴や稼働実績は評価対象にならず、EN規格への適合性が唯一の判断基準です。そのため、設計段階で欧州規格を理解し、事前に対策を講じることが非常に重要です。
安全審査の目的と基準
欧州のCEマーキングは、機械が関連指令(Machinery Directive 2006/42/EC)やEN規格に適合していることを示す証明です。審査員は、民間認証機関(TÜV、Bureau Veritas)、公的機関(BG)、顧客企業の安全担当者など様々ですが、評価基準は統一されています。
- 過去に事故がなかった
- 作業者が危険な操作をしないはず
これらは審査基準になりません。審査官は、機械の物理的構造・安全機能・制御システムが規格に適合しているかをチェックするだけです。
安全柵(保護ガード)の不適合事例
機械の危険区域と作業区域を分離する安全柵は、EN ISO 13857:2019およびEN ISO 14120:2015に準拠する必要があります。初回輸出時に指摘されやすい項目は次の通りです。
指摘項目 | 不適合理由 |
---|---|
高さが1,400mm未満で不適合 | 柵を乗り越えて危険区域侵入を防止できていない |
下部や側面の隙間が180mm以上で不適合 | 柵の下をほふく前進で侵入できる |
上部から手を伸ばすと危険源に接触 | 危険源に手足が届いてします |
金網の隙間が広すぎる | 危険源に指が届いてしまう |
設計のポイント
- 高さや隙間の寸法は必ず規格通りに設定
- 金網は手や足が通らない穴径にする
- 実際の作業現場で「手を伸ばして届くか」を確認
※安全審査官は専用のスケールを用いて金網の隙間確認を行うことがあります。
非常停止装置(E-Stop)の不適合事例
非常停止ボタンは、危険時に機械を即座に停止させる必須機能です。よく指摘される不適合例は以下です。
- 赤色ボタン+黄色背景の規格不適合
- 機械全体が停止しない、または停止範囲が不明確
- 手動リセットボタンが未設置
- 制御回路の安全性が不十分(制御システムの機能安全性(SRP/CS))
設計のポイント
- E-Stopはアクセス容易な位置に設置
- 背景色は黄色、ボタンは赤色
- 自動リセットではなく、必ず手動リセット
- 制御システムは安全定格PLCまたは安全リレーを使用
これにより、緊急時の迅速かつ確実な停止を保証できます。
制御システムの機能安全性(SRP/CS)
高リスク機械では、制御システムの安全機能(SRP/CS)が「フェイルセーフ」設計であることが必須です。初回輸出時によく指摘される項目は以下です。
- ライトカーテンやインターロックスイッチが通常のPLCに接続されている
- 安全回路に冗長性がない
- 安全定格監視装置が未設置
設計のポイント
- EN ISO 13849-1:2023に基づき、リスクレベルに応じたPL(Performance Level)を評価
- 冗長回路を設計し、故障時でも機械停止が保証される構造に
- 高リスクゾーンには安全定格PLCまたは安全リレーを使用
実務アドバイス
- 事前評価
- 日本国内での稼働実績を確認
- 欧州規格との差分をチェックリスト化
- 設計修正
- 安全柵、E-Stop、制御システムを規格に準拠させる
- 書類準備
- リスクアセスメント
- 技術文書(Technical File)
- 使用説明書(Operation Manual)
- 初回輸出前の模擬審査
- TUVやBGの事前評価サービスを利用
- 指摘事項を修正してから正式審査
まとめ
- CEマーキングの審査は事故歴ではなく規格適合性が判断基準
- 安全柵、非常停止装置、制御システムは特に注意
- 初回輸出時には多くの不適合指摘が発生する可能性あり
- 規格準拠の設計・事前審査・技術文書準備が鍵
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