機械を使うにあたって、「操作位置(operating position)」の設計は、操作者の健康と安全を守る重要な要素です。
ここでは、EHSR の 1.1.7 に基づき、操作位置の要件、設計上の留意点、実務的なチェック項目、最新の EU 規則(Machinery Regulation 2023/1230)との関係を整理して解説します。
EHSR 1.1.7 の条文と基本解釈
原文条文(抄録)と和訳
EHSR(機械指令 2006/42/EC, Annex I)には、以下のように定められています:
Operating positions (1.1.7)
“The operating position must be designed and constructed in such a way as to avoid any risk due to exhaust gases and/or lack of oxygen.
If the machinery is intended to be used in a hazardous environment presenting risks to the health and safety of the operator or if the machinery itself gives rise to a hazardous environment, adequate means must be provided to ensure that the operator has good working conditions and is protected against any foreseeable hazards.
Where appropriate, the operating position must be fitted with an adequate cabin designed, constructed and/or equipped to fulfil the above requirements. The exit must allow rapid evacuation. Moreover, when applicable, an emergency exit must be provided in a direction which is different from the usual exit.”
(EUR-Lex)
この条文を和訳・要点化すると:
- 操作位置は、排気ガスや酸素不足などのリスクを回避できるよう設計・構造化されなければならない。
- もし機械使用場所や機械そのものが危険環境を生じさせる可能性があるなら、操作者に良好な作業条件を保証し、予見可能な危険から保護する「適切な手段」が講じられること。
- 必要に応じて、操作位置に「キャビン(運転室)」を設け、その構造・設備を通じて上記要件を満たすこと。
- 操作位置には迅速な避難を可能にする出口が必要で、場合によっては非常口を通常出口と異なる方向に設けること。
- 操作位置の視界、照明などの補助要件も、機械指令の他の条文と併せて求められることがあります。
加えて、新しい Machinery Regulation (EU) 2023/1230 においても、この “Operating positions” 要件は同様に取り込まれています。つまり、旧指令と新規則の双方で、操作位置に関して同様の安全要件が維持されています。
なぜ“排気ガス/酸素不足”が問題になるか?
排気ガスのリスク
操作位置近傍で機械が燃焼エンジンや発熱源・排気系を使う場合、操作室内や操作位置付近に排気ガスが入り込むことがあります。排気ガス中には一酸化炭素 (CO)、窒素酸化物 (NOx)、炭化水素、微粒子等が含まれ、健康被害をもたらします。
たとえば、キャビン内空気は、ディーゼル機器のキャビン内には CO、NOx、微粒子濃度が高くなります。屋外機器であっても、操作位置が風の流れの悪い隣接空間であったり、近くに換気経路がない場合には排気が戻ってくる場合があります。
酸素不足・閉鎖環境のリスク
操作位置が閉鎖空間(例えば地下、密閉室内、大型缶詰室など)の場合、燃焼や化学反応によって酸素が消費される可能性があります。酸素濃度低下は呼吸器系に直接作用し、重篤な場合には窒息リスクにもつながります。
そのため、操作位置設計では酸素欠乏にならないよう換気経路・空気流通設計が必要です。
操作位置設計時の具体留意点・設計ガイド
以下は、操作位置を設計・評価する際、実務で意識すべきポイントです。
操作位置の配置と通気設計
- 操作位置は、排気ガスや発生ガスが流入しにくい場所に設置する。風の向き、温度差、建屋構造を考慮する。
- 屋内・密閉場所では換気回路(給気/排気ファン)を設け、強制換気または局所排気を導入。
- 閉鎖キャビン形式の場合、給気口と排気口を適切に配置し、空気の流れを確保。
- キャビン外部の排気口は、建物の窓・ドア・空気取り入れ口と干渉しないように設置する。 (UNF Home)
キャビン・運転室設計
- 操作室(キャビン)を設ける場合は、キャビンの構造、気密性・換気性、空調・フィルタ機能等を考慮。
- 操作者が迅速に脱出できるよう、出口設計を工夫する。非常口(非常脱出口)を通常出口と異なる方向に設けることが求められる。
- 視界確保、適切照明、騒音抑制、振動低減など、快適かつ安全な環境設計を行う。
緊急避難・非常出口設計
- 操作位置には、非常時に速やかに避難できる出口(通常出口+非常口)を設けること。
- 非常口は通常出口とは異なる方向に設け、避難経路を分散させる。
- 出口開閉の容易性、ドア開閉方向、ドア開放時妨げ物がないことなどを考慮すべき。
危険環境が予想される場合の追加対策
- 操作位置が潜在的に危険ガス・粉じん・化学物質等の暴露を受ける可能性がある場合、キャビン換気監視、ガス検知器、過圧遮断装置などを併設する。
- 操作者が有害環境にさらされる可能性がある場合、操作位置に保護服更衣設備、呼吸用保護具、緊急遮断手段などを設ける。
実務チェックリスト:操作位置設計レビュー用
以下は、機械設計時・安全レビュー時に使える操作位置関連のチェックリスト例です。
チェック項目 | 意図・確認内容 |
---|---|
操作位置が排気ガス流入を受けにくい位置か | 機械排気方向、風向き、建屋構造を検討 |
操作位置に適切な換気が設けられているか | 自然換気/強制換気/局所排気など |
操作位置にキャビンを設ける必要性があるか | 危険環境・外乱環境を想定する場合 |
キャビン設計は気密性・空気流通性を兼ね備えているか | 給気経路と排気経路のバランス、フィルタ設計など |
出口・非常口(非常脱出路)は適切に配置されているか | 通常出口と非常口の方向、開閉性、妨害物確認 |
操作視界・照明・通風などが良好か | 操作者視界、明るさ、気流感覚など |
危険環境の場合、追加安全措置が設けられているか | ガス濃度検知器、過圧遮断、非常遮断装置など |
維持点検性や動態安全性も考慮されているか | 清掃ルート、メンテナンスアクセスを妨げないかなど |
新規則(Machinery Regulation 2023/1230)における操作位置要件との整合性
如上で触れたように、Machinery Regulation (EU) 2023/1230 においても、操作位置 (Operating positions) の要求は条文化されています。古い機械指令と同様の文言が採られており、操作位置の設計において排気ガス・酸欠リスクを回避すること、キャビン設置、緊急脱出路設置等の要件が維持されています。
新規則移行期であっても、設計者・製造者はこの条文を先取りして設計を行うべきです。特に、キャビン設計・換気設計・非常脱出の仕様などは、現行指令下でも十分評価対象になり得ます。
まとめ:安全な操作位置設計のために
- EHSR 1.1.7 は、操作位置における「排気ガスリスク」「酸素不足リスク」を回避する設計を要求しており、必要時にキャビン設置や非常脱出路設計を義務づけています。
- 実務上は、排気流入防止、換気系設計、キャビン構造、脱出路設計、危険環境対応措置などを具体的に検討すべきです。
- 新たな EU 機械規則 (2023/1230) においても、この要件は保持されており、移行後の市場投入を見据えた設計対応が望まれます。
- 操作位置設計レビューには、上記チェックリストを用いて抜け漏れを防ぎ、安全性と使用性を両立させましょう。
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