機械安全|動力源の故障(EHSR 1.2.6)

要旨

EHSR 1.2.6 は、機械への動力源(電源・油圧・空気等)の遮断、復帰または変動により危険な状態が生じてはならないことを要求しています。具体的には、不意の起動や保持失敗、停止命令の妨害、物品の落下・排出、防護装置の機能喪失などを防ぐ必要があることが条文で示されています。

1.2.6 動力源の故障(Failure of the power supply)
機械類への動力源の遮断、遮断後の再結合または変動の如何にかかわらず、これによって危険状態が生じてはならない。
特に、次の点に対して注意を払わなければならない:
-機械類は不意に起動してはならない、
-そのような変更が危険状態を生ず得る場合、機械類のパラメータは、無制御な方法で変更されてはならない、
-命令が既に与えられている場合にも、機械の停止が妨げられてはならない、
-機械の運動部品、または機械によって保持されている物品を脱落したり、または排出したりしてはならない、
-防護装置はその完全な効果を維持しなければならない、または停止命令を与えなければならない。

条文で確認できる主要要求

  • 危険状態を生じさせないこと:電源遮断・再結合・変動のいかんにかかわらず、危険が発生してはならない。
  • 不意の起動の禁止:電源復帰等で機械が不意に起動してはならない(再始動は操作者の明示的操作等が必要な設計にすることが求められる)。
  • パラメータの制御不能化禁止:電源変動により機械パラメータが無制御に変化して危険を生じてはならない。
  • 停止命令の保護:既に与えられた停止命令が電源状態で阻害されてはならない。
  • 保持・防護の維持:機械の運動部品や保持物が落下・排出しないこと、防護装置は機能を維持するか停止命令を与えること。

関連国際規格 — 設計上の参照

EHSR 1.2.6 の要求を満たすために実務で参照される主要規格は次の通りです(各規格の主題は公表情報で確認済み):

  • ISO 14118 — 不意の起動(unexpected/unintentional start-up)の防止に関する設計要件を扱う規格。電源、保持エネルギー(重力・スプリング等)を含む。
  • ISO 13849-1 / IEC 62061 — 安全関連制御システム(SRP/CS)の設計・性能評価。停止機能や不意起動防止を実現する制御部の評価に用いられる。
  • ISO 12100 — リスクアセスメントとリスク低減の基本原則。設計段階での危険想定と対策決定に用いる。

実務的な設計対策

以下は公的条文や規格で示される趣旨に整合する一般的対策です。個別の実装手順や現場の運用例など、具体的事例の断定は行っていません。

リスクアセスメントによる対策決定:ISO 12100 に従い、電源障害時に想定されるリスクを評価し、適切な技術的・組織的対策を選択する。

再起動管理:電源復帰で自動起動しない回路設計とし、再始動には操作者の明示的操作(例えばスタートボタンの押下、キー操作)を要求する。これは ISO 14118 の考え方に合致します。

保持機構の確保:油圧・空気圧等の喪失時に構造的にワークやアームを保持するロック弁、機械的止め等の措置を講じる。これは「落下・排出防止」という条文要請に整合します。

安全回路の冗長化・分離:安全関連回路(停止機能など)を動力回路と分離し、電源変動時にも安全機能を維持する設計を行う。これにより停止命令の妨害防止に寄与します。

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