はじめに
EHSR(Essential Health and Safety Requirements) 1.3.3「落下物または排出物によるリスク」 は、機械からの落下物・飛散物が原因となる危害を未然に防ぐために「適切な予防措置を講じること」を求めています。条文は簡潔ですが、その適用は設計・製造・据付・保守・運用の各段階に及びます。
1.3.3 落下物または排出物によるリスク(Risk due to falling or ejected objects)
落下物または排出物によるリスクを防止するための予防策を講じなければならない。
なぜ重要か — リスクの実際
機械の運転中に発生する落下物・排出物(例:加工片、切りくず、工具の飛散、破片、ワークの脱落など)は、作業者の負傷や設備損壊、二次災害につながることが多いです。規模を問わず、「小さな飛散」でも視覚・聴覚・呼吸器系への被害や眼の損傷など重大な結果を招く場合があります。EHSR 1.3.3 はこうした結果を避けるための予防措置を義務づけています。
EHSRの要求
- 「落下物または排出物によるリスクを防止するための予防策を講じなければならない」。この一文が条文の全体を要約します。適用にあたっては、機械の目的・使用方法・環境・想定される破片の種類・エネルギー等を考慮し、設計段階で適切な対策を決定します。EUR-Lex+1
予防策の具体例(設計・製造段階で考える事項)
以下は、EHSR の趣旨に沿う 確認済みの一般的な対策カテゴリ です(具体的な実装は個々の機械や作業条件による)。
物理的封じ込め(containment)
- ガード、カバー、シールド、バaffles(遮蔽板)で加工領域を囲い、破片や切りくずが外部に飛散しないようにする。
- 大きな飛散エネルギーを想定する場合は、防護壁や防弾仕様の透明カバーを採用することもある。
吸引・集じん(制御された排出)
- 切屑や粉塵が問題になるプロセスでは、局所排気(LEV)や集塵装置を組み込み、飛散物を発生源で除去する。
- 排出された破片を確実に回収するトラフやトレイの設計。
飛散防止・保持措置(ツール・ワークの固定)
- 工具の締め付け、不適切な取り付けによる工具の飛散を防ぐための検査手順と設計(工具保持機構の冗長化等)。
- ワークの脱落を防ぐためのクランプ、チャック、ロック機構の選定と検証。
逸脱検知と自動停止
- センサ(振動、圧力、位置センサ等)で異常を検出したら直ちに停止する機能(安全リレーや安全PLCで実装)。
- 非常停止およびインターロック機能と連動させることで、飛散発生時の拡大防止を図る。
個人用対策(補助的手段)
- 必要に応じてフェイスシールド、保護メガネ、ヘルメットなどの個人用保護具(PPE)を使用。ただし、PPEは最終手段(最下位の対策)であり、技術的対策(封じ込め等)が優先されます。
設計判断で考慮すべき要素(リスクアセスメントの観点)
予防策を決める際は、次のような要素を網羅的に評価します(ISO 12100に基づくリスクアセスメントの考え方に整合):
人的要因(作業者の存在、教育レベル、アクセスの有無)
飛散物の種類(固形片、粉じん、液滴等)と質量・速度(エネルギー)
飛散の方向性と到達範囲(作業者や第三者が存在し得る位置)
発生頻度・発生確率とその結果の重大性
作業環境(屋内/屋外、近接設備、換気)およびメンテナンス頻度
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