「危険源の同定」と「危険源の特定」は同じ意味

安全設計

「同定」と「特定」は同じ意味

リスクアセスメントにおいて頻繁に出てくる用語に「危険源の同定」「危険源の特定」「危険源の抽出」があります。これらの言葉を使い分けるべきか、意味に違いがあるのか、と疑問に思ったことがある技術者も多いのではないでしょうか。
結論からいえば、ISO 12100(機械類の安全設計に関する基本規格)における原文は “identify hazards(危険源を見つけ出す)” を日本語に翻訳した時の表現の違いであり、「同定」「特定」「抽出」という使い分けは翻訳上の話にすぎません。つまり、リスクアセスメント実務においては、これらを区別する必要はありません。


ISO 12100と翻訳の違い

ISO 12100の英語原文では、「危険源を見つけ出すこと」に対して一貫して identify hazards という表現を使用しています。しかし、日本語への翻訳段階で次のように異なる表現が生まれました。

  • 規格の専門家(経済産業省):JIS B 9700(ISO 12100の日本語版)では「危険源の同定」と訳出
  • 法律の専門家(厚生労働省):「危険性又は有害性の調査等に関する指針」では「危険源の特定」と記載
  • 一部の翻訳者や解説書:読みやすさの観点から「危険源の抽出」と表現
  • 筆者:「危険源を見つけ出す」と大和言葉に置き換えることもある

このように、日本語では複数のバリエーションが存在するため、読者が混乱しがちですが、意味としては 「危険源を見つけ出す」 で共通しています。


日本語の意味上の違いと実務的な位置づけ

一般的な国語的意味では以下のような違いがあります。

  • 同定:対象を既存の分類に基づいて確認すること(例:そのリスクが「感電」というカテゴリに属するかどうかを確認)
  • 特定:数ある中から明確に指定すること(例:この機械のこの部分が感電リスクを持つと示す)
  • 抽出:多くの中から必要なものを抜き出すこと(例:考えられるリスクの中から重大なものを取り出す)

しかしリスクアセスメントの現場では、これらの違いを厳密に使い分ける意義はあまりありません。むしろ「危険源を漏れなく、分かりやすく把握すること」が本質であり、どの用語を使っても「identify hazards」という目的には変わりがありません。


実務での使い分けの工夫

筆者が実務で工夫しているのは以下の通りです。

  • 設計者向け(規格ベースの教育)
    → JIS B 9700に従い「危険源の同定」を使用
  • 現場スタッフ向け(安全教育)
    → 厚生労働省の指針に沿って「危険源の特定」を使用
  • 口頭説明や現場巡視
    → 「危険源を見つけ出す」と平易な言葉で表現

このように、対象となる相手が理解しやすい表現を選ぶことが、教育効果や現場での浸透に直結します。


よくある誤解と注意点

  • 誤解①:「同定と特定は、別の工程である」
    → 実際にはすべて “identify hazards” に対応しており、別工程ではない。
  • 誤解②:「JISと厚労省指針で用語が違うので両方しなければならない」
    → 用語の違いに過ぎず、求められる行為は同じ。
  • 誤解③:「用語の統一が絶対条件である」
    → 重要なのはリスクを見落とさないこと。相手に伝わりやすい言葉を選ぶことが優先される。

まとめ

  • 「危険源の同定」「危険源の特定」「危険源の抽出」はすべて “identify hazards” の翻訳であり、意味に差はない。
  • 用語選択は 対象者の理解度 に応じて柔軟に変えるのが実務的。
  • 技術者にとって重要なのは リスクを漏れなく見つけ出し、共有し、適切に低減すること です。

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