はじめに
EU市場に製品を投入するためには、CEマーキングを付け、EUの指令や規則に適合していることを宣言する必要があります。その際に発行するのが「EU適合宣言書(Declaration of Conformity, DoC)」です。
ところが、産業機械に関しては「機械指令(2006/42/EC)」と「低電圧指令(2014/35/EU)」を同時に適合宣言してはいけないというルールが存在します。これは技術者にとって混乱を招きやすいポイントの一つです。
この記事では、その理由を指令の条文や実務の観点から解説し、さらに現場での対応方法を具体的にまとめます。
EU適合宣言での誤解
私自身も過去に「産業機械だから機械指令」と「電気(制御)を使うから低電圧指令」両方に適合するだろうと考え、EU適合宣言書に二つの指令を同時に記載していました。ところが第三者機関の担当者から「これは誤りです」と指摘を受けました。
つまり、製品が機械指令の対象であれば低電圧指令を同時に宣言してはいけないのです。しかし同時に、機械指令の中では低電圧指令の安全目標に準拠することが求められています。このあたりが誤解を招くポイントです。
機械指令の適用範囲
機械指令(2006/42/EC)の対象となる製品は以下の通りです。
- (a) 機械類
- (b) 交換可能機器
- (c) 安全部品
- (d) 持ち上げ機の付属品
- (e) チェーン、ロープ、及び帯ひも
- (f) 取り外し可能な機械式伝達装置
- (g) 半完成機械類
工場やプラントで使用される産業機械の大半は、この適用範囲に含まれます。
低電圧指令の適用範囲
低電圧指令(2014/35/EU)は、第1条で次のように規定しています。
本指令は、交流50~1000V、直流75~1500Vの電圧範囲で使用するよう設計された電気機器に適用する。
つまり、ほとんどの産業機械に使われるモーター、制御盤、電気機器は低電圧指令の適用範囲にも含まれます。ここで「両方当てはまるのでは?」という疑問が生じるのです。
機械指令の除外規定
この問題を整理するカギが機械指令 第1条(2)(k) にあります。ここでは以下の製品は「機械指令から除外される」と規定されています。
- 家庭用電化製品
- 音響映像機器
- 情報技術機器
- 通常の事務機器
- 低電圧の開閉装置および制御装置
- 電動機
これらは「低電圧指令でカバーされるもの」と明記されています。つまり、低電圧指令に該当する製品は機械指令の対象から除外されるため、二重に宣言してはいけないのです。
電気を使う機械の安全性はどう扱うか?
では、電気を使う産業機械の場合、低電圧指令を宣言しなくてもよいのか?
機械指令の付属書I(EHSRs:基本的安全衛生要求事項)1.5.1には次のように記されています。
電源供給を有する機械類は、電気的性質に起因する危険源が防止されるように設計・製造されなければならない。低電圧指令で規定される安全目標は、機械類に適用される。
つまり、機械指令の適合性評価の一部として、低電圧指令の安全目標に準拠しなければならないのです。
結論として:
- EU適合宣言書には「機械指令」を記載し「低電圧指令」を併記して記載しない。
- ただし設計・評価では低電圧指令の要求事項も満たすために確認を行った整合規格は、宣言書に記載しておく。
実務上の対応ポイント
- DoCには機械指令のみ記載
電気を使用する機械でも、宣言対象は「機械指令」。 - 設計段階で低電圧指令を参照
絶縁設計、耐電圧試験、配線規格などは低電圧指令の整合規格(例:EN 60204-1 機械類の電気装置)に基づいて確認する。 - 整合規格のダブルチェック
機械指令と低電圧指令の両方の整合規格を突き合わせ、試験や評価を網羅する。
最新動向:機械指令から機械規則へ
2023年に「機械規則(Regulation (EU) 2023/1230)」が採択され、2027年1月から適用されます。規則は直接適用されるため、加盟国の国内法を介さずに即時に効力を持ちます。これに伴い、低電圧指令との関係性も従来の解釈を引き継ぐ形で整理される見込みです。
技術者は今のうちから新しい機械規則と既存の整合規格を確認しておく必要があります。
まとめ
- 機械指令と低電圧指令は「同時に宣言できない」
- 機械指令の対象製品には、低電圧指令の安全目標を取り込む規定がある
- 実務では「DoCには機械指令のみ」「設計では低電圧指令も参照」という使い分けが重要
- 今後は「機械規則」への移行に伴い、規格の参照方法や解釈にも注目が必要


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