「関係法令」から学ぶ機械安全の基礎と実務活用
設計技術者向け安全教育の中でも重要な「関係法令」について、法律・指針・規格の体系をわかりやすく解説します。
この内容は、厚生労働省の資料(機械の包括的な安全基準に関する指針PDF)や関連法令をもとにまとめています。
1. 法令は“安全設計の土台”である
設計者は「安全な機械を作ること」が最優先です。
その出発点となるのが労働安全衛生法です。
同法第3条第2項にはこう書かれています。
事業者は、労働者の安全と健康を確保するため、機械の設計、製造、輸入にあたり、労働災害を防止するよう努めなければならない。
つまり、設計段階から安全確保を考えることが法律で求められているのです。
違反すれば罰則や民事責任が発生することもあります。
2. 指針は“法律の曖昧さを埋める羅針盤”
法律は「何をすべきか」は示しますが、「どうすべきか」までは示しません。
そこで活用されるのが厚生労働省の技術上の指針です。
特に重要なのが「機械の包括的な安全基準に関する指針」。
この指針は以下の3つのポイントを定めています。
- 機械の安全確保は設計段階から行う
- リスクアセスメントに基づき危険源を除去または低減する
- それでも残る危険には保護方策や安全情報で対応する
この流れは、国際規格ISO 12100の安全設計プロセスと一致しています。
3. JIS・ISO規格は“実務の設計図”
安全設計を実際に行う際には、JISやISO規格が「設計の教科書」となります。
- JIS B9700(ISO 12100)
機械安全の一般原則、リスクアセスメントの手順 - JIS B9705-1(ISO 13849-1)
制御システムの安全要求と性能レベルの評価 - JIS B9960-1(IEC 60204-1)
機械の電気設備に関する安全要求事項
これらは法的義務ではありませんが、遵守していればPL(製造物責任法)や裁判時に「適切な安全設計を行った証拠」になります。
4. リスクアセスメントの法的位置づけ
2006年の法改正により、リスクアセスメントの実施が努力義務化されました(労働安全衛生法第28条の2)。
これは「義務ではないからやらなくていい」という意味ではなく、労働基準監督署の指導対象になるレベルの必須業務と捉えるべきです。
リスクアセスメントの流れは以下の通りです。
- 危険源の特定
- リスクの見積り(頻度・重篤度・回避可能性)
- リスク低減方策の決定
- 実施後の残留リスク評価
- 安全情報としての伝達(取扱説明書・警告ラベル等)
5. 実務での「法律×指針×規格」活用例
例:産業用プレス機の新規設計
- 法律
労働安全衛生法・安衛則の該当条文を確認(特定機械としての規制あり) - 指針
包括安全基準に沿ってリスクアセスメントを実施 - 規格
JIS B9705-1で安全制御設計、ISO 12100で保護方策を選定 - 結果
二重安全回路+光線式安全装置を採用、残留リスクは警告表示で対応
6. まとめ:設計者の“3本柱”
- 法律:最低限守るべきルール(守らないと違法)
- 指針:法律の要求を実務に落とすための道しるべ
- 規格:安全設計を具体化するための設計図
安全設計は「経験や勘」ではなく、「法律・指針・規格」の3本柱に基づいて行う時代です。
設計者自身がこの体系を理解しておくことで、事故を未然に防ぎ、責任を果たすことができます。
参考文献・出典
- 厚生労働省「機械の包括的な安全基準に関する指針」
- 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)
- JIS B9700(ISO 12100)、JIS B9705-1(ISO 13849-1)、JIS B9960-1(IEC 60204-1)
- 厚生労働省「機能安全に関する技術上の指針」
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