はじめに
CEマーキングを取得するためには、製品がEUの「新しいアプローチ指令(New Approach Directives)」や「規則」で求められる基本的要求事項(Essential Requirements)を満たしていることを示す必要があります。このとき有効な手段となるのが「整合規格(Harmonised Standards)」の活用です。
整合規格とは、EU官報(Official Journal of the European Union, OJEU)で公表され、欧州委員会が公式に認めた規格のことです。これらを適用することで、製品が指令や規則の要求事項に「適合している」と推定される、いわゆる「適合推定(Presumption of Conformity)」が得られます。
技術者にとって重要なのは、常に最新の整合規格リストを確認し、設計・評価・試験の根拠として活用することです。
整合規格リストの確認方法
整合規格は以下のように公開されています。
- 欧州委員会公式サイト
👉 Harmonised Standards | Internal Market, Industry, Entrepreneurship and SMEs
各指令ごとに整合規格がまとめられており、検索やダウンロードが可能です。 - 各指令ごとのPDF(欧州委員会 DocsRoom 提供)
- 機械指令(2006/42/EC):DocsRoom – European Commission
- 低電圧指令(2014/35/EU):DocsRoom – European Commission
- EMC指令(2014/30/EU):DocsRoom – European Commission
- RoHS指令(2011/65/EU):DocsRoom – European Commission
(※実際には各指令ページから最新PDFを探す必要があります。更新頻度は数ヶ月〜年単位のため、必ず日付を確認してください。)
なぜ整合規格が重要なのか
整合規格を適用することで、製品のCEマーキングに必要な「技術文書(Technical Documentation)」や「適合宣言(DoC: Declaration of Conformity)」を作成する際に、大きな信頼性が得られます。
例えば:
- 機械指令では「EN ISO 12100(機械類の安全性―基本概念)」が整合規格に含まれており、これを参照することでリスクアセスメントが国際的に認められた形で実施できます。
- 低電圧指令では「EN 60335シリーズ(家庭用電気機器の安全性)」などが整合規格となり、試験ラボやNB(Notified Body)でも共通の評価基準として使われます。
- EMC指令では「EN 61000シリーズ」が整合規格に含まれ、製品の電磁妨害対策における基準となります。
つまり整合規格は「設計ガイドライン」であると同時に「証拠書類作成の基盤」となるのです。
実務での活用ポイント
技術者が押さえておくべき具体的な運用の流れは以下の通りです。
- 対象指令の特定
製品がどの指令に該当するかを整理します。たとえば、電気製品なら低電圧指令+EMC指令がほぼ必須です。 - 整合規格の確認
欧州委員会の整合規格リストを確認し、最新の日付・版数をチェックします。 - 設計・試験の基準に反映
設計段階から整合規格を反映させ、試験所へ渡す試験仕様も規格番号で明記することが望ましいです。 - 適合宣言書(DoC)への反映
DoCには「EN XXXX:YYYY」と規格番号を記載することが一般的で、これにより「適合推定」が明示されます。 - 定期的な見直し
規格は数年おきに改訂されます。古い版を使い続けていると「整合規格リストから外れる」ケースがあり、適合性の根拠が弱まるリスクがあります。
最新動向
2024年時点で注目されているのは、「機械指令」から「機械規則(Regulation)」への移行です。規則は各加盟国の国内法への変換を待たずに直接適用されるため、メーカーにとってはより即時的な義務となります。また、整合規格の更新も従来よりスピード感を持って進む見込みです。
まとめ
整合規格の確認は、CEマーキングにおける「最も基本でありながら実務的に重要なステップ」です。技術者は単に規格番号を引用するだけでなく、設計・試験・適合宣言において整合規格を「生きた基準」として使うことが求められます。
今後は「機械規則」や「サイバーセキュリティ規格」など、整合規格リストの内容も進化していきます。常に最新情報をチェックし、実務で確実に反映できる体制を整えることが、グローバル市場での競争力を維持するポイントとなります。
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