欧州市場に機械製品を輸出する際に必須となるのがCEマーキングです。これは単なるマークではなく、製品がEUの安全・健康・環境・消費者保護の要件を満たしていることを示す「パスポート」。違反が発覚すれば、通関差し止め・市場回収・罰金・企業ブランド毀損といった深刻な罰則につながります。
まず有名な違反事例として、ソニーの「PS one」事件を取り上げます。
2001年10月、オランダの港で輸入検査を受けたPS oneから、同国法で定める基準を超えるカドミウムが検出されました。その結果、輸入差し止めと部品交換を余儀なくされ、出荷が約2カ月も滞りました。この影響でソニーは約130億円の売上損失を被り、世界中の電機メーカーに「環境規制対応の重要性」を強烈に印象づけたのです。
「PS one」から有害物質を検出、欧州向け製品が差し止められ、販売不能に——。電機メーカーの環境担当者の間で語り草となっている事件がある。2001年10月、欧州市場向けにオランダの港で陸揚げされたソニーの家庭用ゲーム機のPS oneから、同国の法律で定められた基準を上回るカドミウムが検出された。PS oneは輸入差し止めと部品の交換を余儀なくされた。出荷は約2カ月滞り、ソニーは130億円の売り上げを失った。
この事例はRoHS指令違反でしたが、CEマーキングも同様に「違反=市場からの排除」と直結します。違反時の罰則はEU各国の法律に基づいて科され、出荷停止、市場回収、不正業者名の公開、操業停止、さらには罰金や拘置処分にまで発展する可能性があります。さらに、法的罰則に加えて製造物責任(PL法)や社会的責任を問われ、企業ブランドに甚大なダメージを与えるのです。
欧州委員会は違反製品を「RAPEX(Rapid Alert System for Non-Food Products)」で公開しており、消費者製品の事例が多いものの、産業機械に関しても摘発が存在します。では、産業機械を輸出する場合、どのタイミングで違反が発覚し、どのようなリスクがあるのかを見ていきましょう。
CEマーキング違反が発覚する主なタイミング
欧州通関(上市)時
通関時に問題となるのは、主に書類不備や形式的な誤りです。
- EU適合宣言書が添付されていない
- 宣言書の型番や名称が製品ラベルと一致していない
- 技術文書の一部が欠落している
このようなケースでは、輸入業者が製品を受け取れず、出荷がストップします。実務的な対応策は、正しいEU適合宣言書を速やかにPDFで送付することです。対応が遅れると、当局の疑念を強める結果となり、場合によっては調査が拡大される恐れがあります。技術者としては、事前に書類セットを完全に整備しておくことが肝要です。
工場据付時や使用時の安全査察
最も違反が見つかりやすいのがこの段階です。監査官は次の点を重点的にチェックします。
- EU適合宣言書の内容と正確性
- CEマーキングや製造銘板の表示内容
- 技術文書(テクニカルファイル)の整備状況
- 製品が必須安全要求事項(EHSRs)を満たしているか
この時に重要なのは、整合規格(EN規格)や技術文書を根拠に反論できることです。技術者が自らCE適合性を理解していれば、的確に対応できます。逆に外部に丸投げしていると、現場での突発的な質問に答えられず、企業の信頼を損なうことになります。
ポイントは、違反が見つかった場合に「謙虚に改善を受け入れる姿勢」を示すことです。単なる反論ではなく、改善策を提示することで監査官からの信頼を得られます。
事故や労働災害が発生した時
最も深刻なケースです。事故調査が始まると、当局は次のステップを踏みます。
- EU適合宣言書と技術資料(テクニカルファイル)の提出要求
- 労働安全監督局や警察による詳細調査
- 保険組合や裁判所による責任追及
ここで求められるのは、10年間の保管義務を満たした技術資料を期限内(約1週間とされることも)に提出できるかどうかです。もし提出できなければ、当局から「規則を守らない企業」と見なされ、徹底的な調査対象となります。
この段階では弁護士の助言を必ず受けるべきです。製造物責任(PL法)に発展する可能性が高く、単なる技術的問題では済まされません。
違反を防ぐために技術者ができること
- 社内でのCEマーキング理解を強化する
外部コンサル任せにせず、技術者自身が規格や指令を理解することで現場対応力が向上します。 - 技術文書を常に最新状態に維持する
設計変更や部品変更のたびに更新し、いつでも提出可能な状態にしておくことが重要です。 - 模擬監査を実施する
実際の監査を想定し、EU適合宣言書や技術文書を社内でチェックすることで弱点を洗い出せます。 - 事故対応フローを事前に策定する
「誰が当局対応を行うか」「弁護士への連絡フローはどうするか」を明確化しておくことで、実際のトラブル時に迅速な対応が可能です。
まとめ
CEマーキング違反は、単なる形式ミスではなく、企業存続に直結する重大リスクです。違反が発覚する主なタイミングは「通関」「据付・使用」「事故発生時」。
技術者は常に根拠をもって自社製品の安全性を説明できる体制を整えることが求められます。
特に事故時の対応は厳格で、技術資料を期限内に提出できなければ「規則違反企業」として扱われます。技術者にとって最も重要なのは、常に根拠をもって自社製品の安全性を説明できる状態を保つことです。
欧州では2027年から新しい機械規則(Regulation (EU) 2023/1230)が全面適用され、CEマーキングの要件もより厳格化します。今後は、産業機械の分野でも違反摘発のリスクが高まると予想されます。
したがって、日本の技術者が今から準備すべきことは、
- CEマーキング要件の理解
- 技術文書の整備
- 社内対応力の強化
これらを徹底し、欧州市場に安心して製品を供給できる体制を構築することです。
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