今日は、Essential Health and Safety Requirements (EHSRs) の必須要求事項の中から1.5.10 の放射について解説します。
1.5.10 放射(Radiation)
機械類からの望ましくない放射の放出は、除去されるかまたは人に対する放射の影響を害のない程度まで低減するように設計・製造されなければならない。
イオン化放射の放出は、設置作業・運転作業および清掃作業中における機械類の本来の機能に対して十分である最低レベルに制限されなければならない。リスクが存在する場合には、必要な防護対策が講じられなければならない。
設置作業・運転作業および清掃作業中における非イオン化放射の放出は、人に対する放射の影響を害のない程度まで低減されなければならない。
和訳引用:資料作成国際安全衛生センター
今日は 機械安全における「放射(Radiation)」のリスク について取り上げます。
普段の生活で「放射」と聞くと、原子力や放射線事故を連想する方も多いと思います。しかし、機械の世界では「放射」という言葉がもっと広い意味で使われます。ここでいう放射とは、機械から人に影響を与える可能性のある「望ましくないエネルギーの放出」 を指します。
これは 機械指令(Machinery Directive 2006/42/EC)における必須安全衛生要求事項(EHSR) の1.5.10項にも定められており、設計者・使用者にとって重要な視点です。
放射の種類とリスク
放射は大きく イオン化放射 と 非イオン化放射 に分けられます。
1. イオン化放射(Ionizing Radiation)
- 代表例:X線、ガンマ線
- 特徴:細胞やDNAに直接ダメージを与える強力な放射線
- 機械の例:非破壊検査装置、医療用X線装置
EHSRの考え方:
- 設置・運転・清掃など通常の使用において、放射は「本来の機能に必要な最小限」に制限されるべき。
- さらにリスクが残る場合は、鉛シールドなどの防護策や遮蔽を講じなければならない。
2. 非イオン化放射(Non-Ionizing Radiation)
- 代表例:紫外線(UV)、赤外線(IR)、レーザー光、電磁波、超音波
- 特徴:DNAを直接壊すほどではないが、熱作用や皮膚・眼への影響、長期曝露による健康リスクがある
- 機械の例:レーザー加工機、溶接機、マイクロ波装置、大型モーターの電磁場
EHSRの考え方:
- こちらも「人に害のない程度まで低減」するよう設計することが必須。
- 遮光カバー、波長フィルター、電磁シールド、適切な表示・警告が重要。
設計者・使用者に求められること
- リスクアセスメントを徹底する
- その機械はどの種類の放射を発するのか?
- その放射がどんな影響を及ぼす可能性があるのか?
- 曝露量や頻度を測定・評価することが求められます。
- 低減措置を講じる
- 放射源を封じ込める(遮蔽・シールド)
- 放射レベルを最小化する(設計段階で工夫)
- 安全距離を確保する(設置場所の工夫)
- 使用者への情報提供
- マニュアルや警告ラベルで「放射が存在すること」を明示
- 安全に使用するための条件を具体的に説明
現場でよくある事例
- レーザー加工機 → カバーを外して作業すると眼に重大な障害を起こす
- 溶接作業 → 紫外線による「電気性眼炎」や皮膚障害が発生
- X線検査装置 → 定期点検を怠ると漏洩のリスクが増大
いずれも 「目に見えないエネルギー」 だからこそ、事故が起きたときに気づきにくいという特徴があります。
まとめ
機械からの放射は「静かに、しかし確実に」人に影響を与えるリスクを持っています。
EHSR 1.5.10 が求めているのは、「不要な放射は出さない」「必要な放射も最小限に抑える」 というシンプルな原則です。
設計者はもちろん、使用者も「放射は見えないリスクである」ことを理解し、正しい知識と対策を持って取り組むことが重要です。
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