RoHS III(EU 2015/863)とは?
RoHS(Restriction of Hazardous Substances)は、電子・電気機器に含まれる有害物質の使用を制限するEU指令です。
- 初版 RoHS I(2002/95/EC)では、6物質(鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、PBB、PBDE)を対象とし、2006年から施行されました 。
- RoHS II(2011/65/EU)は適用範囲を拡張し、CEマーキング制度との連動も強化された指令です 。
- さらに、RoHS III とも呼ばれる Directive (EU) 2015/863 により、4つのフタル酸エステル類(可塑剤)が追加され、対象物質は合計10種となりました 。
追加規制物質(4種)の内容と制限値
以下のフタル酸エステル類が新たに追加されました(いずれも均質材料中で 0.1%(w/w) を超えてはならない):
- DEHP(フタル酸ジ(2-エチルヘキシル))
- BBP(フタル酸ブチルベンジル)
- DBP(フタル酸ジブチル)
- DIBP(フタル酸ジイソブチル)
適用の背景と適用開始時期(特に工業用機器)
- Directive (EU) 2015/863 は2015年6月4日に官報に掲載されました。
- 全電子・電気機器(カテゴリ1–7, 10, 11)には 2019年7月22日 に適用開始 。
- 医学機器(カテゴリー8)および監視・制御装置(カテゴリー9)(工業用含む)は 2年の猶予があり、 2021年7月22日 に適用されました。
対応ポイント
a) 実務対応:試験・分析方法と代替材料
- フタル酸エステル類の検出・定量には XRF(X線蛍光分析) や GC-MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析) が使われ、分析技術は成熟しています。
- DEHPやDBPなどの代替として、フタル酸フリーや非可塑剤系樹脂が積極的に採用されています。
b) 文書化とサプライチェーン管理
- CEマーキング取得やRoHS適合性を証明するために、分析データ、リスク評価、技術文書への記録が不可欠です。
- サプライチェーン全体からの含有証明書(RoHS適合宣言)の収集と管理が鍵であり、企業の品質・法務体制の整備が求められます。
実務対応チェックリスト
チェック項目 | 内容 |
---|---|
1. 10物質リスト整理 | RoHS I(6物質)+RoHS III(4物質)の含有状況確認とリスト化 |
2. 分析データ記録 | XRFやGC-MSの結果を技術文書に体系的に保存 |
3. 代替材評価 | 含有が確認された部材・材料の代替可否を評価 |
4. サプライヤー証明管理 | 含有証明書・適合宣言(DoC)の取得とアーカイブ |
5. CEマーキングへの反映 | 技術文書やDoCにRoHS III適合性を明記 |
6. 法務・品質ガバナンス | 内部レビュー制度、外部監査にも対応できる体制構築 |
まとめ
RoHS III の適用によって、工業用監視・制御装置にもフタル酸エステル類の規制が拡大し、2021年7月22日以降は厳格な適合要件が課されています。この点は、管理者クラスの意思決定層が早急に認識すべき事項です。
これらの対応は一見負担に見えますが、長期的には以下の価値につながる機会でもあります:
- ブランドの信頼性強化:環境・規制対応に優れた製品は市場での競争力に直結します。
- リスク管理の体制整備:技術文書とガバナンスが強化されることで、製品事故や法令違反リスクが低減します。
- グローバル展開への布石:EU規制に対応できる体制は域外市場でも評価されます。
✍️ MSDコンサルティング
コメント