近年、スマート監視システムは企業や自治体で急速に普及しています。しかし、同時にサイバー攻撃や不正アクセスといったリスクも増大しており、製品のライフサイクル全体でセキュリティを確保することが不可欠です。
そこで重要となるのが、ユーザー向けセキュリティドキュメントです。本記事では、EUのCyber Resilience Act(CRA)およびIEC 62443規格に準拠したセキュリティドキュメントの役割と構成、実務上のポイントについて解説します。本稿では、スマート監視システムのユーザー向けセキュリティドキュメントについて解説します。
ドキュメントの目的
ユーザーセキュリティドキュメントの目的は以下の通りです。
- 製品の安全な運用手順を提供
- 製品の整合性維持と脆弱性対応方法を明確化
- 規制要件に基づいたコンプライアンス対応を支援
このドキュメントは、特にCRA Annex II(ユーザー向けセキュリティ情報)に対応するために作成されています。
ドキュメントの構成
(1) セキュリティ機能の一覧
- 製品を既知の脅威から保護する機能を明示
- 例: 通信暗号化、認証機構、ファームウェア署名
(2) 運用環境の要件
- プライベートネットワークでの利用を推奨
- カメラおよびベースステーションの物理的セキュリティ確保
- 適切なネットワーク設定やアクセス制御の手順を提供
(3) 製品寿命におけるセキュリティハードニング
- 退役時の安全な処理方法を明記
- 例: 工場出荷時リセット、ストレージの安全消去
(4) デフォルトの安全設定
- 製品はSecure by Defaultを遵守
- ユーザーが設定を変更しても、リセット後は安全な状態に復帰
- 例: バッテリー節約のために暗号化を無効化可能でも、初期状態は暗号化有効
3. CRA Annex IIとの対応
ユーザーセキュリティドキュメントは、以下の要件を満たしています。
CRA Annex II項目 | 対応内容 |
---|---|
製品の安全機能 | 暗号化、認証、ファームウェア整合性確認 |
使用方法ガイド | 運用環境要件、ネットワーク・物理セキュリティの推奨手順 |
脆弱性報告・更新 | ファームウェア更新手順、脆弱性報告窓口を明記 |
製品の安全な廃棄 | 工場出荷リセット、ストレージ安全消去手順 |
このように、製品の意図された利用方法、脅威、緩和策、サポート体制が網羅されており、CRA Annex IIの核心要件を満たしています。
4. 実務上のポイント
- ユーザー向けドキュメントは継続的に更新することが重要
- 新しい脆弱性やアップデートに対応するため
- 製品マニュアルだけでなく、オンラインヘルプやFAQと連動させると利便性向上
- ドキュメントは監査証跡としても活用可能
このドキュメントを活用することで、ユーザーは製品を安全に利用でき、企業はCRA準拠の証跡を残せるという二重のメリットがあります。
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