近年、製品やサービスに対するサイバー攻撃が増加しており、特にIoT(Internet of Things)デバイスや組み込みシステムは攻撃対象となりやすいです。状態監視システム(温度・圧力センサ、ベースステーション、モバイルアプリ)も例外ではなく、セキュリティ対策が重要です。
このでは、状態監視システムのセキュリティモデルとリスクアセスメントのプロセスを体系的に整理し、経営者や管理者が理解しやすい形で解説します。
システム構成とセキュリティコンテキスト
状態監視システムは以下の3つの主要コンポーネントで構成されます。
- 温度・圧力センサ:状態の取得し、Wi-Fiネットワーク経由でベースステーションへ送信
- ベースステーション:データ処理・ストレージ・外部通信のハブ、データ処理および外部システム(クラウドストレージや通知サービス)との通信の中核を担う
- モバイルアプリ:ユーザーが遠隔操作・監視を行うためのインターフェース
これらが連携することで、リアルタイムの監視と安全なデータ管理が可能になります。
セキュリティコンテキスト(Security Context)
システムの運用環境に関する前提を明確化します。主な例は以下です。
- SC_1:製品はプライベートネットワーク内で動作。インターネットからの直接の入口はない。
- SC_2:ユーザーはISP(インターネットサービスプロバイダ)の提供するネットワークで保護している。
- SC_4:システムは家庭内に設置され、物理的セキュリティで守られている。
- SC_5:無線通信はWi-Fiを用いたプライベートネットワーク上で実施される。
これにより、現実的な攻撃シナリオにフォーカスした脅威評価が可能となります。
システムモデルと攻撃者モデル
システムモデル(System Model)
システムモデルでは、ゾーンと通信経路(zones & conduits)を明確化します。
ゾーン/伝送路 | 説明 | 関連するコンテキスト |
---|---|---|
インターネットアクセス可能インターフェース | Webアプリまたはモバイルアプリ | SC_1 |
リモートアクセス可能インターフェース | 温度・圧力センサとベースステーション間の通信 | SC_2, SC_4, SC_5 |
家屋内のみ | 物理的アクセスが必要な資産 | SC_4 |
このマッピングにより、リスク評価やセキュリティ制御の重点箇所を特定できます。
攻撃者モデル(Attacker Model)
潜在的な攻撃者が持つ能力を定義します。
- 攻撃者は通信チャネル全てを監視・盗聴・改ざん可能
- 一部コンポーネントを侵害し、悪意ある挙動をさせる可能性あり
- コンポーネント上のプロセスを乗っ取り、正常動作を妨害可能
これにより、現実的なリスクと許容リスクレベルを評価する基準が整います。
リスクアセスメントプロセス
リスクは影響度×発生確率で算出されます。
影響度
レベル | 説明 |
---|---|
0 | 影響なし |
1 | 軽微な影響(30分未満の短時間障害) |
2 | 深刻な影響(数時間の障害) |
3 | 恒久的なセキュリティ侵害(長期にわたる不正動作) |
発生確率
レベル | 説明 |
---|---|
1 | 起こりにくい |
2 | 起こり得る |
3 | 起こる可能性が高い |
脅威と初期リスク評価
以下はシステム上の主要な脅威と対策例です。
資産 | 脅威ID | 脅威内容 | ゾーン | 影響度 | 発生確率 | リスク | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
センサ/ベースステーション | TR_001 | 不正ファームウェア書込み | 工場内 | 3 | 1 | 3 | 署名付きFWを利用、検証あり |
モバイルアプリ | TR_002 | なりすまし攻撃 | インターネット | 2 | 2 | 4 | 認証・認可、暗号化保存 |
モバイルアプリ | TR_003 | アプリ-ベース間通信の盗聴 | インターネット | 2 | 3 | 6 | 通信暗号化、相互認証 |
センサ/ベースステーション | TR_004 | ベースステーションのなりすまし | リモート通信 | 3 | 1 | 3 | TPMで秘密鍵保持、物理ボタンでリンク再設定 |
セキュリティ要件と対策
脅威IDごとのセキュリティ要件は以下の通りです。
脅威ID | セキュリティ要件 |
---|---|
TR_001 | 署名付きファームウェアと完全性検証 |
TR_002 | 認証・認可、暗号化保存 |
TR_003 | 相互認証 + 通信暗号化 |
TR_004 | 秘密鍵保持、物理ボタンによる再リンク |
設計段階からのセキュリティ組込みとSBOMの重要性
セキュリティを設計段階から組み込むことで、市場信頼性を確保できます。SBOM(Software Bill of Materials)を活用することで、ソフトウェアに含まれているコンポーネントの脆弱性が発見された際の影響有無の特定までのリードタイムを短縮可能であり、脆弱性が残留するリスクの低減や脆弱性対応工数の低減につながります。特に、有償のSBOMツールを活用することで、OSS間の依存関係やOSSの再帰的な利用(再利用部品)も効率的に検出・管理できます 。
SBOMは、ソフトウェアコンポーネントやそれらの依存関係の情報を含む機械処理可能な一覧リストであり、ソフトウェアのサプライチェーンを可視化することに役立ちます。ライセンスコンプライアンス、セキュリティ、品質に関するリスクを明らかにします。
リスク登録簿と継続的な監視
リスク登録簿(Risk Register)を整備することで、脅威モデル文書を基にした継続的な監視が可能となります。これにより、リスクの変化に迅速に対応でき、システムのセキュリティを維持できます。
結論
状態監視システムのセキュリティモデルとリスクアセスメントは、単なる技術的な課題ではなく、企業の信頼性や競争力に直
状態監視システム(温度/圧力センサ+ベースステーション+モバイルアプリ)のセキュリティモデルと脅威評価プロセスについて解説します。
目的は、システム全体のセキュリティ確保の取り組みを経営者や管理者が理解しやすい形で整理することです。
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