EU 新機械規則(Machinery Regulation):デジタル時代の安全を再定義する

CEマーキング

機械規則(Regulation (EU) 2023/1230)

EUは従来の「機械指令(2006/42/EC)」を廃止し、2023年に施行された「機械規則(Regulation (EU) 2023/1230)」に移行しました。従来の指令と比べ、今回は規則(Regulation)という形式を採用。これにより、EU全加盟国で同一内容の法令が即時適用され、解釈のバラつきがなくなります。

適用スケジュールと移行期間

  • 施行日:2023年7月20日
  • 完全適用開始:2027年1月20日。それ以降、市場に出るすべての機械製品にはこの新規則が必須。
  • 並行運用:それまでは旧指令と新規則の両方が並存し、製造・販売時期で対応が分かれます。

デジタル時代に対応した革新的なポイント

1. ソフトウェア・デジタル部品を「安全コンポーネント」に明記

従来は機械の物理的部分が重視されていましたが、新規則ではソフトウェアも安全性の重要な構成要素として定義されます。さらに「ソースコード」の明確な定義も加わり、プログラムが理解しやすいものであることが求められます。

2. デジタルドキュメンテーションの推進

技術文書や使用者マニュアル、適合宣言などは紙ベースだけでなくデジタル形式でも提供が可能に。QRコードやダウンロード方式で利用可能とし、持続可能性と利便性を両立させています。

また、機械とその部品は、ライフサイクル全体(設計・製造・使用・廃棄)を通じて一意に識別可能でありをもち、サプライチェーン内で追跡可能でなければなりません。

3. AIとサイバーセキュリティに対する具体的対応

  • AIを備えた機械の規制強化:自己学習や予測不可能な振る舞いをする機械(いわゆる「高リスク機械」)は、自己宣言による適合ではなく、第三者機関による認証が必要となる場合があります。
  • サイバー攻撃からの防御:遠隔操作やネット接続による不正アクセスに対して、「意図的な改ざん」と「意図しない変更」を区別し、防護策を立てる必要があります。これはCyber Resilience Actなど他の関連法とも整合させる方向です。

4. 評価システムの強化と透明性向上

  • EHSR(基本的健康・安全要件)の追加強化と見直し。
  • リスクアセスメント義務の明文化:AIや自律機械における動作の変化も査定対象になります。
  • 加盟国の市場監視義務:機械による事故データや健康被害の報告を定期的にEUに提供する制度が設けられました。

5. 法令との整合 → 一体的な安全基盤へ

Machinery Regulationだけでなく、Cyber Resilience Act(CRA)との統合化が進みます。CEマーキングや適合評価で両方に準拠する必要性があり、関連するハーモナイズドスタンダードも2026年以降順次整備される見込みです。


企業・製造業に求められる準備アクション

検討領域主な対応策
文書管理デジタル指示書・マニュアル整備、QRコード活用によるアクセス確保
リスク評価AI・サイバーセキュリティ・ライフサイクルを含めた詳細リスクアセスメント導入
ドキュメント整備デジタル適合宣言や技術仕様一式の整備(ライフサイクル含む)
第三者評価高リスク機械に対するNotified Body対応体制の構築
内部教育従業員へのAIとサイバー安全ルールに関する教育と文書遵守

締めくくり

EUのMachinery Regulation(EU 2023/1230)は、デジタル化、自動化、AI技術といった時代背景を反映し、「安全」「信頼」「責任」を再構築する法制度です。特にAI・サイバーセキュリティ対応、デジタル文書の推進、チェーン全体の透明性など、多方面にわたる変化が企業に影響します。

2027年1月の移行までに、準備と体制整備を進めることが成功の鍵です。

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