製品の安全設計において最も基本となるのが、「その製品は誰が、何のために、どのように使うか」を明確にすることです。これを「意図する使用(Intended Use / Intended Purpose)」と呼びます。
意図する使用を明確にしなければ、リスクアセスメントを正しく行うことはできません。ISO 14971「医療機器のリスクマネジメント」では、リスク分析は意図する使用(Intended Use)と合理的に予見可能な誤使用(Reasonably Foreseeable Misuse)を特定することから始めることが規定されています。
意図する使用とは何か?
意図する使用とは、製造業者が意図する製品の使い方を指します。具体的には、取扱説明書、安全データシート、仕様書、ラベル、製品銘鈑、販促資料など、製造業者から提供される情報に基づく使用方法のことです。
例を挙げると:
- 家庭用ミキサー:食材を混ぜるために家庭で使用する
- 工業用ロボット:特定の工程で製造ライン作業を行うために熟練者が操作する
もし製造者からの情報が存在しない場合、意図する使用は一般的に予見される使い方となり、使用範囲が曖昧になってしまいます。
リスクアセスメントと意図する使用
リスク分析を行う際には、製品が使われる全ての状況を想定する必要があります。具体的には以下の場面が含まれます:
- 使用時
- 設置・調整時
- 清掃・保守・保管時
- 解体や廃棄時
つまり、意図する使用は「意図された目的のために使用される状況」だけでなく、合理的に予見可能な使用も含めて安全である必要があります。
技術者は、リスクアセスメントを行う前に、製品の使用範囲を明確に定義することが重要です。これにより、リスクの洗い漏れや見落としを防ぐことができます。
ユーザーの特徴も考慮する
意図する使用を特定する際には、ユーザーの属性やスキルレベルも考慮する必要があります。
- 一般ユーザー
- 未経験者・素人
- 熟練者や専門家
使用者の経験や知識によって、誤使用の可能性や安全上のリスクが変化するためです。場合によっては、ユーザーへの訓練が必要になることもあります。この訓練は、取扱説明書に加えて提供される追加情報として、製品の安全使用をサポートします。
合理的に予見可能な誤使用(Reasonably Foreseeable Misuse)
意図する使用を決めるだけでなく、どのような誤使用が合理的に予測できるかも特定することが求められます。ISO 14971では、設計段階でこれを洗い出すことにより、製品の安全性を最大化できると規定されています。
例えば:
- キッチン用ブレンダーを水洗い中にスイッチを入れる
- 工業機械を誤った順序で操作する
こうした誤使用を想定して安全機構や注意表示を設計することで、事故を未然に防ぐことが可能です。
まとめ:意図する使用を明確にすることの意義
- 意図する使用を明確にしなければ、リスクアセスメントは成立しない
- 使用場面は、使用・設置・保守・解体まで広く想定する
- ユーザー属性やスキルを考慮して設計・情報提供を行う
- 合理的に予見可能な誤使用も洗い出し、安全設計に反映する
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