国際安全規格を理解することが、グローバル競争力につながる
日本の製造業は高い技術力を持ちながらも、海外市場へ製品を展開する際には「安全規格」という新たな課題に直面します。
「国内では問題なく販売できる製品なのに、海外では追加の設計変更が必要になった。」
「CEマーキングやUL認証のために設計を見直すことになった。」
このような経験をした企業や技術者は少なくありません。
その背景には、各国の法令や認証制度だけでなく、それらの基礎となるISOやIECなどの国際安全規格があります。
国際安全規格は単なる技術文書ではありません。世界中の設計者、メーカー、試験機関、行政機関が共通の考え方で安全を評価するための「共通言語」として機能しています。
この記事では、機械設計や製品開発に携わる技術者が知っておきたい国際安全規格の基本について、できるだけ分かりやすく解説します。
国際安全規格とは
国際安全規格とは、製品や機械の安全性を確保するために国際的な標準化団体が策定している規格です。
代表的な標準化団体には次の2つがあります。
- ISO(International Organization for Standardization)
- IEC(International Electrotechnical Commission)
一般的に、
- ISOは機械、安全管理、品質管理など幅広い分野
- IECは電気・電子・制御に関する分野
を中心に規格を策定しています。
多くの国では、これらの国際規格を基礎として国内規格を整備しています。そのため、海外へ製品を輸出する企業にとって、国際規格への理解は重要な設計要素の一つとなっています。
JIS・ISO・IECの違いとは
初めて規格を学ぶ技術者が混乱しやすいのが、JIS、ISO、IECの違いです。
それぞれの役割は次のようになります。
| 規格 | 役割 |
|---|---|
| JIS | 日本の国家規格 |
| ISO | 国際標準化機関が策定する国際規格 |
| IEC | 電気・電子分野の国際規格 |
2019年には工業標準化法の改正により、「日本工業規格」は「日本産業規格」へ名称が変更されました。
なお、「Standard」は日本語で「規格」または「標準」と訳されます。現在でも「国際規格」という表現は広く用いられており、「規格」という言葉が使われなくなったわけではありません。
WTOのTBT協定と国際規格の関係
「なぜ世界中でISOやIECが重要視されるのか」
その理由の一つが、WTO(世界貿易機関)のTBT協定です。
TBT協定は、「貿易の技術的障害に関する協定」と呼ばれ、各国が独自の技術基準を設けることで国際貿易が不当に妨げられることを防ぐ目的があります。
この協定では、関連する国際規格が存在する場合、加盟国は原則としてそれを国内規格の基礎として利用することが求められています。ただし、国際規格が目的に適さない場合などには例外も認められています。
その結果、多くの国や地域でISOやIECを基礎とした規格が採用されており、国際規格への適合は海外展開を進める上で重要な要素となっています。
ただし、国際規格に適合しているだけで自動的に各国で販売できるわけではありません。実際には、それぞれの国や地域の法令や規制への適合も確認する必要があります。
機械安全規格の基本「A・B・C規格」
機械安全を理解するうえで最も重要なのが、ISOが採用しているA・B・C規格の考え方です。
A規格(基本安全規格)
すべての機械に共通する安全設計の基本概念を示します。
代表例はISO 12100です。
ISO 12100では、
- リスクアセスメント
- リスク低減
- 本質安全設計
など、安全設計の基本的な考え方が示されています。
B規格(グループ安全規格)
複数の機械に共通する安全要求事項を定めています。
例えば、
- 安全距離
- ガード
- 非常停止
- 制御システム
- 機械の電気装置
などです。
代表例にはIEC 60204-1(機械の電気装置)があります。
C規格(個別製品安全規格)
特定の機械に対する安全要求事項を規定しています。
例えば、
- 産業用ロボット
- 工作機械
- 印刷機械
- プラスチック成形機
など、それぞれに対応した規格があります。
例えばISO 10218は産業用ロボットを対象としたC規格です。
C規格がなくても安全設計はできる
設計者からよく聞かれる質問があります。
「自社製品にはC規格がありません。」
しかし、これは必ずしも問題ではありません。
ISO 12100では、対象となるC規格が存在しない場合でも、
- A規格
- 関連するB規格
を用いてリスクアセスメントを実施し、安全対策を講じる考え方が示されています。
つまり、安全設計は個別規格の有無だけで決まるものではなく、リスクアセスメントに基づいて合理的に安全性を確保することが重要なのです。
日本は国際規格を「利用する側」だけではない
「国際規格は海外が決めて、日本は従うだけ」
このように考えられることがありますが、実際は異なります。
ISOやIECの規格は、各国の専門家が参加する委員会やワーキンググループで議論され、合意形成を経て策定されます。
日本からも多くの企業や研究機関、大学などの専門家が参加しており、国際規格の策定に貢献しています。
また、ISO規格は各地域・各国の規格へ反映されます。
例えば、
- ISO 12100
- EN ISO 12100
- JIS B 9700
は技術的内容の整合が図られています。
このような国際的な標準化活動は、日本の技術や知見を世界に反映させる重要な機会でもあります。
IS・TS・TRとは何か
ISOやIECには、正式な国際規格(IS)だけでなく、複数の文書があります。
IS(International Standard)
正式な国際規格です。
TS(Technical Specification)
技術仕様書です。
技術が十分成熟していない場合などに発行され、定期的なレビューが行われます。
TR(Technical Report)
技術報告書です。
調査結果や参考情報を提供する目的で発行されます。
新しい技術分野では、TSやTRを確認することで、今後の標準化の方向性を把握できる場合があります。
国際安全規格を理解するメリット
国際規格を理解することで、企業にはさまざまなメリットがあります。
- 海外市場への展開を進めやすくなる
- 設計初期から安全性を考慮できる
- 手戻りや設計変更を減らしやすくなる
- リスクアセスメントの品質向上につながる
- 顧客との技術的なコミュニケーションが円滑になる
特にグローバル市場では、安全規格への理解が企業の信頼性を高める要素の一つとなっています。
まとめ
国際安全規格は、海外展開を目指す製造業にとって欠かせない知識です。
ポイントを整理すると、
- ISOとIECは世界で広く利用されている国際規格を策定している
- JISは日本の国家規格であり、多くの規格で国際規格との整合が図られている
- WTOのTBT協定は国際規格の活用を原則としている
- 機械安全規格はA・B・C規格という体系で整理されている
- C規格がない場合でも、A規格とB規格を活用した安全設計が可能である
- 日本の専門家もISO・IECの標準化活動に参加している
- TSやTRは新しい技術動向を把握するための重要な文書である
国際安全規格は、単に法令対応のために学ぶものではありません。製品の安全性を高め、海外市場で信頼を得るための基盤となる知識です。設計者や開発者が国際規格の考え方を理解し、日々の設計に活用することが、これからのものづくりにおいてますます重要になるでしょう。
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