製造物責任法(以下、PL法)は、製造物が原因で人身事故や財産損害が発生した場合、製造者が負う法的責任を定めた法律です。その中核となる概念が「欠陥」です。欠陥があると判断されると、製造者は損害賠償責任を負う可能性があります。技術者としては、自社製品の設計・製造・表示において、どのような場合に欠陥と認められるかを理解しておくことが不可欠です。
欠陥の定義(PL法第2条)
PL法第二条では、欠陥を次のように定義しています。
第二条 定義 この法律において製造物とは、製造又は加工された動産をいう。
2 この法律において欠陥とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
3 (略)
ポイントは、「通常有すべき安全性」という概念です。これは単に危険が存在するかどうかではなく、その製造物が通常期待される安全性を備えているかどうかという観点から判断されます。
欠陥の3分類
PL法では、製品の欠陥は以下の3種類に分類されます。
(1)設計の欠陥
製品の設計段階で安全性を十分に考慮しなかった場合、製造物全体に欠陥が生じます。
- 具体例
- 家庭用電気ケトルの設計で、過熱防止機能を設けなかったため火傷事故が発生。
- 自転車のブレーキ設計が不十分で、停止距離が長くなり事故が起きた場合。
(2)製造上の欠陥
製造プロセスに問題があり、設計どおりに作られなかった場合に発生します。
- 具体例
- 電気ストーブのヒューズに規格外の材料を使用したため、過熱して火災が発生。
- 自動車部品の溶接不良により、走行中に破損した場合。
(3)警告や指示の欠陥
製品そのものに除去しきれない危険性がある場合、適切な警告や取扱説明を提供しなければ欠陥とされます。
- 具体例
- 化学製品の使用上の危険を明示したラベルがないため、使用者が中毒事故を起こした。
- 電動工具の操作手順書が不十分で、感電や切創事故が発生。
欠陥の判断基準
欠陥の有無は、PL法第2条に記載された複数の観点から総合的に判断されます。
(1) 製造物の特性
製品の本質的な特性を考慮します。
- 具体例
- 包丁は鋭利であることが前提であり、指を切っただけで欠陥とは認められません。
- しかし、刃が脆く簡単に折れてしまって怪我をした場合は設計・製造上の欠陥とみなされる可能性があります。
(2) 通常予見される使用形態
製品が一般的に使用される状況や用途に照らして判断します。
- 具体例
- 室内で花火を使用して火災が起きても、通常の使用とは考えられないため、欠陥とはされません。
- ただし、取扱説明書で定めた範囲内の使用方法で事故が発生した場合は、欠陥と認められる可能性があります。
(3) 製造業者が製品を引き渡した時期
安全基準や技術水準は時代とともに変化します。製造時点での技術水準や安全基準を考慮して欠陥を評価します。
- 具体例
- 1990年代に製造された家電製品は当時の安全規格に準拠していれば、現行基準では低い安全性でも欠陥とはされないことがあります。
(4) その他の製造物に係る事情
行政上の安全基準や業界標準、事故発生の頻度などを総合的に評価します。
- 具体例
- 製造物が行政規制を満たしている場合でも、設計上の問題で事故が発生すれば欠陥とされる可能性があります。
- 規制クリアは最低基準の証明に過ぎず、欠陥の有無を直接否定するものではありません。
技術者が注意すべき実務ポイント
- 設計段階で安全性評価を組み込む
- FMEA(故障モード影響分析)やFTA(故障木解析)を用いてリスクを定量化。
- 製造プロセスの品質管理
- 材料検査、工程管理、組立検査を徹底し、設計仕様どおりの製造を保証。
- 警告・取扱説明書の充実
- 製品の危険性を明示するラベルやマニュアルを作成。
- 特に子供や高齢者などの利用者を想定した注意喚起を検討。
- 製品引き渡し時点の技術水準に適合
- 法規制、業界標準、最新技術水準を考慮。
- 事故・クレーム情報の収集と分析
- 事後のリスク低減策や設計改善に活かす。
まとめ
PL法における「欠陥」とは、単なる危険存在ではなく、製造物が通常備えるべき安全性を欠いているかどうかで判断されます。設計・製造・警告の各側面で欠陥が存在する可能性があり、技術者はこれを理解し、以下を実務に組み込む必要があります。
- 設計段階での安全性検証
- 製造工程の品質管理
- 警告表示や取扱説明書の明確化
- 製品リスク評価の継続的実施
これらを徹底することで、事故発生時の法的リスクを低減できるだけでなく、製品の信頼性向上にも直結します。

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