はじめに
製造現場や保全業務での事故防止のためには、機械や設備を「完全に安全な状態」にする手順の徹底が不可欠です。
その基本概念となるのが、ゼロ・エナジー・ステート(Zero Energy State: ZES)およびゼロ・メカニカル・ステート(Zero Mechanical State: ZMS)です。
アメリカの産業安全分野では、これらの概念を基盤としたロックアウト・タグアウト(LOTO)プログラムが労働安全の重要施策として広く導入されています。
ZES/ZMSの定義
ZES/ZMSとは、次の2つの条件を満たす状態を指します。
- 動力源の遮断
- 機械類に対して電気・空圧・油圧などの外部エネルギー供給が完全に停止されている状態。
- 内部エネルギーの消散
- 機械内部に残留する電気・圧力・位置エネルギーなどがすべて解放され、安全が確認できる状態。
これらを実現することで、偶発的な稼働や予期せぬ動作による労働災害のリスクを最小化できます。
なぜ「遮断だけ」では不十分なのか
エネルギー供給を遮断しただけでは、機械が必ずしも安全とは言えません。
多くの製品には以下のようなエネルギーが蓄えられており、残留リスクが存在します。
- 電気エネルギー(コンデンサの充電、残留電圧)
- 油圧・空圧エネルギー(ホース内やアキュムレータの圧力)
- 位置エネルギー(持ち上げられた重量物やばねの張力)
- 運動エネルギー(回転体・慣性部品の惰性)
したがって、安全確保には動力源を遮断した後、内部エネルギーを確実に消散させる手順が必要です。
ロックアウトの重要性
ZES/ZMSを達成しても、第三者が誤って電源を投入したり、油圧や空圧を供給してしまえば危険が再発します。
そこで、安全状態を維持するための手順がロックアウト(Lockout)です。
ロックアウトとは、遮断したエネルギー源を物理的に施錠し、無断で復旧できないようにする仕組みです。
これにより、安全状態を第三者の操作から確実に守ります。
設計段階で考慮すべきポイント
安全なロックアウトを可能にするためには、設備の設計段階から以下の対策を講じることが望まれます。
1. 電気設備
- 主電源を遮断するスイッチや遮断器を設置。
- 遮断位置で南京錠による施錠が可能な構造とする。
- 遮断後の残留電圧を放電する装置を設置し、電圧が残っている間は制御盤の扉を開けられないよう設計。
2. 油圧・空圧設備
- 仕切弁や遮断弁で供給を停止し、内部圧力を解放できる構造とする。
- 圧力がゼロの状態でバルブを施錠できるようにする。
3. タンク・アキュムレータ
- 内部圧力の解放、または遮断状態のロックが可能な構造にする。
4. 位置エネルギー
- 重量物や部品を下ろしてエネルギーを小さくできるような設計を検討。
まとめ
- ZES/ZMS=エネルギー供給の遮断+内部エネルギーの解放
- 単なる遮断だけでは安全とは言えず、ロックアウトで安全状態を維持する必要がある。
- 設計・導入・運用の各段階でロックアウトしやすい構造や手順を整備することが重要。
ZES/ZMSとロックアウトは、保全作業や点検業務の安全文化を支える基本概念です。
「事故が起きない仕組みを設計する」ことが、現場の安全と信頼性向上につながります。
MSDコンサルティング
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