製造物責任(PL)法(その1)|PL法は被害者救済の法律であり、同時に製品安全管理の指針でもある

機械安全

私は、労働災害を防ぐためには技術者が「製造業者の責任(製造物責任)」を正しく理解することが欠かせないと考えています。これから数回にわたり、製造物責任(PL)法の基本と、事故や労働災害を未然に防ぐための実務的な視点をお伝えします。

ここでは、法学的な解釈や裁判例の細かい理論よりも、「現場でどのように安全を確保すべきか」「企業や技術者に求められる姿勢は何か」という実践的な観点を重視して説明していきます。


製造物責任法とは

製造物責任法(平成6年法律第85号)は、製造物の欠陥によって人の生命・身体・財産に損害が発生した場合、製造業者が損害賠償責任を負うことを定めた法律です。

通常、製品は製造業者から流通業者を経由し、小売業者を通じて消費者に届きます。しかし、PL法では欠陥が原因で被害が出た場合、被害者は流通や販売の過程を飛び越えて直接、製造業者に責任を問うことができます。これは消費者にとって非常に重要な救済ルートとなります。


法律の目的(第一条)

(目的)
第一条 この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

要点は次の2つです。

  1. 第一の目的は「被害者の保護」
  2. その結果として「国民生活の安定」と「経済の健全な発展」に結びつく

つまり、この法律は「企業を罰する」ためのものではなく、社会全体の安心と安全を維持するための仕組みです。


誰が被害者にあたるのか

「被害者」というと、製品を直接使用する人をイメージしがちです。しかし、PL法が対象とする被害者はもっと広く設定されています。

例えば、建設機械の欠陥で事故が起きた場合:

  • 実際にその機械を操作していた作業員
  • 同じ現場で作業していた他の労働者
  • 付近を通行していた第三者

これらすべてが保護対象です。「直接の利用者」だけでなく「影響を受けた周囲の人々」も含まれることは、現場での安全管理において重要なポイントです。


PL法が必要とされた背景

現代社会では、以下のような要因により被害者の立場が弱くなっています。

  • 企業の巨大化と流通の複雑化
    → 欠陥製品に関する被害者の声が製造業者に届きにくい。
  • 製品技術の高度化
    → 使用者が内部構造や危険性を理解できず、安全性の判断を製造業者に委ねざるを得ない。

このため「消費者の弱い立場を守る仕組み」としてPL法が制定されました。


品質管理とPL法の違い

日本企業は長年にわたり「品質管理の高さ」で信頼を築いてきました。しかし、PL法で問われるのは「製品の品質」だけではありません。

  • 品質管理は 製造工程の安定性 に重きを置く
  • PL法は 製品に潜むリスクを設計段階からどの程度低減したか を問う

つまり、どれだけ製造が精密でも、設計自体に危険が残っていれば欠陥とみなされる可能性があります。これは技術者にとって特に重要な視点です。


企業に与える影響と技術者の役割

現代社会では、一度の重大事故が企業に致命的なダメージを与えることがあります。ニュースやSNSの拡散により、社会的信用が一気に失われることも珍しくありません。

そのため企業や技術者には、次のような責務があります。

  • 設計段階からリスクを想定し、安全対策を組み込む
  • 使用者の誤操作や想定外の使い方も考慮した設計を行う
  • リコールや注意喚起の仕組みを整備し、被害拡大を防ぐ

PL法は「最低限の法的責任」を定めるものですが、実務ではそれ以上の積極的な安全確保と情報提供が求められています。


まとめ

製造物責任(PL)法は「被害者保護」のために制定された法律であり、同時に技術者や企業に対して「製品設計・製造における安全管理の指針」を示すものです。

  • 被害者は利用者に限らず、周囲の第三者も含まれる
  • 品質管理だけではPL法の責任を免れない
  • 企業の存続と社会的信用のために、安全確保は最優先課題

✍️ MSDコンサルティング

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