ウィーン協定(Vienna Agreement)とは

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ウィーン協定(正式名:ISO-CEN 技術協力に関する協定、Agreement on technical cooperation between ISO and CEN)は、1991年に締結された国際規格と欧州規格の協調化を進める枠組みです。CEN(欧州標準化委員会)と ISO(国際標準化機構)が、規格策定で重複や非効率を排除し、より迅速・整合的な規格発行を目指すための協定です。

この協定の肝は、CEN が作成した DIS(国際規格原案)を ISO にそのまま提出できる制度を認めることにあります。つまり、欧州主導の規格案が、他地域の関与を経ずに国際規格になる可能性を生むという点が特徴です。

簡単にいえば、欧州のCEN(欧州標準化委員会)が、その他の非欧州諸国(米国、日本、中国など)の関与なく作成した規格原案を。そのままDIS(国際規格原案)としてISOに提出できることを認めた協定です。

国際規格を短期間で効率良く制定できる点にメリットがありますが、CEN(欧州標準化委員会)のメンバーのみによる作業は、欧州加盟国の要請のみに関心が向けられることになります。具体的には、欧州のいづれかの国の国家規格や基準等をベースにCENが欧州規格ENの原案を作成し、それがそのまま国際規格ISOの原案になるという流れです。

簡単に表すと、例えば

  1. ドイツ規格DIN → 欧州規格EN (欧州標準化委員会)
  2. 欧州規格EN → 国際規格ISO(ウィーン協定)
  3. 国際規格ISO → 米国規格ANSI、日本規格JISなど(WTO/TBT協定)
  4. 国際規格ISO → 欧州規格EN_ISO → ドイツ規格DIN_EN_ISO(WTO/TBT協定)

欧州加盟国にとっては、規格作成の手間はありますが、ウィーン協定により、非常に高い確率で自国の国家規格を国際規格ISOにすることができ、WTO/TBT協定により、他国の国家規格も自国の規格と同じになるという非常に有益な協定なのです。

「規格を制する者が世界を制する」という欧州人の考え方にかなった協定、それがウィーン協定なのです。

ウィーン協定のFAQ(日本規格協会)(外部リンク PDF)

 

協定の意義と基本構成

  • 協定により、ISO と CEN は共同で新規プロジェクトを立案し、情報交換や並行投票を通じて規格を整合させます。
  • 規格案の承認段階では ISO と CEN が同時並行で投票を行う(Parallel Voting)体制が確立されています。
  • EC(欧州委員会)の規制要件を反映させつつ、非欧州国も国際標準化プロセスで関与できる柔軟性を持たせている点が、この協定のもうひとつの特色です。
  • 2001年改訂版(Version 3.3)以降は、ISO 主導性を優先する文言が強められ、規格改正時のリード委員会制度や改定優先度が調整されました。

協定発効後の実績として、かつて年間 178 件程度だった ISO-CEN 共同規格は、現在では 5,500 件に達しており、欧州規格の三分の一が ISO 規格と同一内容になっているとの報告もあります。


運用上の課題と実務制約

  • 主導性の偏り:ISO 主導が優先される運用となっており、CEN 主導案が最終的に ISO 規格改正手順に追随するケースもあります。
  • 欧州独自要件との調整:EU の指令や規制要件を反映させるための調整が、国際技術要件との間で板挟みになることがあります。
  • 意見調整と投票制度の違い:ISO と CEN 間で制度・投票基準・参加国体制が異なり、意見集約に手間を要することがあります。
  • 非欧州国の関与限界:ウィーン協定自体は ISO/CEN 間の協調枠組みであるため、米国・中国などの非欧州国の意見反映度は限定的という指摘があります。
  • 規格更新のタイムラグ:ISO 規格が先行して改正され、EN 規格が時間を置いて追従するというズレが発生することがあります。

最近の潮流:協調深化と国際拡張

  • ISO/TC 211(地理空間情報分野)では、プロジェクト起案時からウィーン協定を デフォルト適用 とする運用が採られるようになっています。
  • 日本(JISC)と欧州(CEN / CENELEC)は、2014年に協力協定を締結し、以後、技術交流や共同標準化を進めています。
  • 非欧州国向けの協力枠組み(オブザーバー参加、技術連携枠組みなど)が拡張されつつあり、CEN / CENELEC は国際プレゼンスを強化しています。
  • 規格化の対象分野でも、持続可能性、エネルギー効率、AI 安全性、サイバーセキュリティといった最新テーマで ISO–CEN 協調開発が増加。

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