機械指令(Machinery Directive 2006/42/EC)の付属書 I(Annex I)に示される Essential Health and Safety Requirements(EHSR)には、作業者と機械のインターフェースに関する要求事項が含まれています。その中でも 1.1.8 座席への要求事項 は、作業者が着席して操作する場合に、健康・安全・作業効率に直接影響する重要な設計要素です。
座席が不適切に設計されると、不快感、倦怠感、長時間作業による健康への悪影響(腰痛、循環障害など)が発生する可能性があります。そのため、製造者は座席の設計・設置において、作業者の体格、作業内容、機械の特性を総合的に考慮する必要があります。
1.1.8 座席
該当する場合で、作業条件が許す場合には、機械類を構成する作業領域は、座席の取り付けを考慮した設計がなされなければならない。
作業者が操作しているときに着席することが意図される場合、また、作業位置が機械類の構成部品である場合、座席は機械類と共に備えられなければならない。
作業者の座席は、作業者が適切な位置を維持することがきるものでなければならない。さらに、制御装置から座席までの距離は、作業者によって調整可能でなければならない。
機械類が振動を受けやすい場合には、その座席は、作業者に伝わる振動を合理的に可能な最低レベルまで低減されるように設計・製造されなければならない。座席の取付は、受ける全ての応力に耐えるものでなければならない。作業者の足元に床がない場合は、滑り防止材で覆った足置き台を備えなければならない。
座席設置の基本原則
- 作業領域に座席を設置可能にすること
- 作業条件が許す場合、作業領域は座席設置を前提として設計されなければならない。
- 操作位置が機械構成部品に含まれる場合も、座席を備える必要がある。
- 作業者の適切な姿勢の維持
- 座席は、作業者が操作中に適切な姿勢を維持できる構造であること。
- 制御装置との距離は作業者が調整可能でなければならない。
- 振動対策
- 機械の振動が座席に伝わる場合、座席は振動を最小限に抑える構造・材料・減衰サスペンションを備えること。
- 座席の取り付けは、作業中に受ける全ての応力に耐えられる設計であること。
- 足元の安全確保
- 作業者の足元に床がない場合は、滑り止め材で覆われた足置き台を設置すること。
作業者の快適性と作業効率への配慮
座席は単に「座る場所」ではなく、作業効率や健康に大きく影響します。製造者は次の要素を考慮して設計する必要があります。
- 作業領域との空間関係
- 座席設置場所、作業面の高さ、制御装置の位置、アクセスすべき機械部品との間隔などを十分に確保する。
- 座席寸法の調整機能
- 高さ、幅、深さ、角度、背もたれ位置は調整可能にする。
- 必要に応じてアームレストやフットレストも調整可能にする。
- 体格差のある作業者が快適かつ安全に操作できることが求められる。
- 作業姿勢の最適化
- 長時間作業でも腰や背中に過剰な負担がかからないよう設計する。
- 作業者が手足を自然に動かせる空間を確保する。
振動・衝撃の低減
機械の動作に伴う振動や衝撃は、作業者の健康に影響する可能性があります。
- 全身振動対策
- 座席に振動減衰機構(サスペンションや吸振材)を設け、作業者が受ける振動を可能な限り低減する。
- 特に建設機械や農業機械、フォークリフトなど、振動が大きい機械では必須です。
- 座席固定の強度
- 座席の取り付け部は、作業中に発生する全荷重や衝撃に耐えられる設計であること。
実務での設計・確認ポイント
座席設計時に確認すべきポイントは次の通りです。
- 作業領域が座席設置を考慮しているか
- 座席の高さ・幅・深さ・背もたれ・アーム・フットレストが調整可能か
- 制御装置との距離が作業者に合わせて調整可能か
- 座席の固定構造が振動や衝撃に耐えるか
- 振動吸収・減衰機構が適切に備わっているか
- 足置き台や滑り止め材が適切に設置されているか
関連規格
座席設計で参考にできる国際規格・EN 規格:
- ISO 7250:人体寸法の基本データ
- ISO 11121:振動曝露の評価に関する指針(作業者の全身振動)
- EN 1037 / EN ISO 13849:安全制御や非常停止との干渉防止
これらの規格を組み合わせて設計することで、EHSR 1.1.8 に適合し、作業者の安全性・快適性・作業効率を両立できます。
まとめ
EHSR 1.1.8 座席への要求事項は、単に「座る場所」の設計ではなく、作業者と機械のインターフェースを最適化する設計指針です。作業者が快適で安全に操作できることは、長時間作業や高負荷作業における健康リスク低減と作業効率向上に直結します。
製造者は、座席設計を含めた作業者周りの設計を リスクアセスメントと照らして文書化 し、必要に応じて EN 規格等に準拠した証拠をテクニカルファイルにまとめることが重要です。
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