1) NR-10とは?——ねらいと全体像
- 目的:発電・送電・配電・需要(消費)すべての段階で、電気設備と直接/間接に関わる労働者・利用者・第三者の安全と健康を守るための最低要件(管理・技術・手順・訓練・文書化等)を定める規則。
- 初出:1978年6月8日 Portaria MTb nº 3.214/1978で初めて制定。CLT(労働法)第179~181条を具体化。CLTの安全衛生章は1977年12月22日法6.514号で改められている。
- 大原則:
- リスクはまず集団的保護(EPC)で抑える(遮断・安全電圧・バリア等)。個人用保護具(EPI)は補完。
- リスク評価→手順化→訓練→記録化を一体運用。
- 技術文書は有資格者が作成し、設備記録を常に最新版に。
2) 歴史と改正の流れ
⚙ 主な出来事
- 1978/06/08:Portaria MTb nº 3.214/1978でNR-10制定(当初題名「Instalações e Serviços em Eletricidade」)。背景はCLT改正(法6.514/1977)。
- 1983/06/06:Portaria SSMT nº 12/1983で最初の全面改正。公的技術規格や国際規格との整合参照を明記。
- 1998~2003:電力セクター民営化や業務様態の大変化を受け、CTPPで見直し議題化→技術グループ(GT/NR-10)→公募→三者構成GTTで条文案を作成。
- 2004/12/07:Portaria MTb nº 598/2004で第二次大改正。題名も現行の**「Segurança em Instalações e Serviços em Eletricidade」**に。**CPNSEE(電気エネルギー安全全国常設委員会)**設置も明記。
- 2016/04/29:Portaria MTPS nº 508/2016で附属書の番号付け等の一部改定(一回限りの変更)。
- 2019/07/30:Portaria SEPRT nº 915/2019でNR-01(一般則)との訓練・権利・義務の調和に合わせてNR-10も整合改定。
- 2018/11/28:Portaria SIT nº 787/2018はNR全体の整理・適用方式を統一する省令(NR-10本文の「特殊基準化」そのものを新設する省令ではない)。
- 2019年:Decreto nº 9.759/2019で一時的に各種合議体が失効→Decreto nº 9.944/2019でCTPP(三者構成の常設委員会)が正式復活。以後の会合は通し番号再付番。
3) 現行NR-10のコア要件
3.1 適用範囲と基本原則
- 適用:発電・送電・配電・需要(消費)段階の設計・製作・組立・運用・保守、およびその周辺作業。所管機関規格を優先し、不足時は国際規格に従う。
- 管理優先順位:遮断>安全電圧>(不可なら)バリア/障害物/自動セクショニング/再閉路ブロック等。接地は公的規格(なければ国際規格)に適合。
3.2 文書・記録
- 単線結線図(接地方式・保護機器の仕様含む)を常時最新版に。
- 設備記録(75kW超に義務):安全手順群、雷保護/接地検査記録、EPC/EPI仕様、資格・訓練・権限の証明、絶縁試験結果、防爆(分類区域)機器の認証、検査技術報告(改善勧告・計画付)。
3.3 プロジェクト(設計)安全
- 遮断装置の再投入防止資源と状態表示(例:緑=OFF/赤=ON表示)を盛込む。
- 同時動作遮断(インターロック)や安全作業空間確保、回路識別と標識、接地方式(TN/TT/IT)定義、一時接地が可能な設計など。記述的メモリアル(仕様書)に保護装置の原理・整合性も書く。
3.4 施工・運転・保守
- 互換性のある機器・工具のみ使用、絶縁工具は定期試験。
- 電気室は専用スペース(倉庫利用NG)。
- 作業姿勢・照度はNR-17(人間工学)に合致。
3.5 無電圧(停止)状態での作業——6ステップ
- セクショニング(分離)
- 再通電阻止(ロック&タグ等)
- 無電圧確認
- 一時接地(等電位化)
- 近傍の通電部保護(管理区域の遮蔽)
- 再通電阻止の標識
→ 復電時は工具回収→人員退避→一時接地解除→標識解除→ロック解除・再接続の順。状況により有資格者が手順変更可(安全水準を落とさないことが条件)。
3.6 活線(エネルギー有り)での介入
- AC≥50 V または DC>120 Vは項目10.8の要件(資格・訓練・認可)を満たす者のみ。
- 低圧の基本的操作(ON/OFF等)は、状態良好な機器で、警告者レベルの者でも可。
- 管理区域立入りは附属書IIの最少距離遵守。危険が差し迫れば即時停止。新技術・新設備導入時は事前RA(リスク分析)と手順作成。
3.7 高電圧(AT)の要件(要点)
- 単独作業禁止(チーム前提)。現場毎の作業指示書(OS)が必要。
- 作業前ミーティング(PL/TA)で方法・リスク・役割を確認。詳細手順は有資格専門家が作成。
- 自動再閉路装置は作業中“遮断(ブロック)し、明示標識。
- 工具・絶縁具は定期電気試験。チーム/管制と常時通信。
3.8 資格・訓練・認可(NR-01整合後)
- 定義:
- 有資格(Qualificado)=電気分野の正式教育修了証を有する者。
- 法的に資格(Habilitado)=有資格かつ専門評議会登録あり。
- 熟練(Capacitado)=有資格・有登録者の指導の下で訓練を受け、その責任下で従事。
- 認可(Autorizado)=上記いずれか+会社の正式承認。権限識別制度と人事台帳での記録が必須。
- 健康診断(NR-7準拠)と特別訓練(附属書III)が必要。
- 再訓練:隔年+(職務/会社変更、3か月超ブランク、設備・方法の大変更時等)に都度。
3.9 防爆(EX)・火災
- 分類区域で使う電気機器はブラジル認証(Conformidade)が必要。静電気対策、過電圧/過電流/加熱等の自動保護(アラーム・セクショニング)を装備。作業は正式リリースまたはリスク源抑制の許可がある場合に限定。
4) 2025年時点の最新情報
- 政府公式NR-10ページが2025年6月2日に更新。現行条文PDF・改正履歴・参照先(官報等)を集約。最新本文の一次窓口として確認推奨。
- 規制アジェンダ(2023–2025):労働・雇用省の規制アジェンダ文書(2025年版)で、NR-10の「総合的見直し(revisão geral)」が対象リストに掲載。つまり、今後の改正可能性が公式に示されている。運用者は改正案の公示(Consulta Pública)に備え、手順・訓練・記録類の適合性チェックを継続すべき。
- NR-01との整合運用:2019年のPortaria SEPRT nº 915/2019以降、訓練・権利・義務の“横串要件”はNR-01に依拠。NR-10附属書IIIのカリキュラム最小要件と併せ適用が前提。
まず覚える4本柱
- リスクを把握:電圧・作業環境(高さ/湿気/粉じん/爆発雰囲気)を洗い出す。
- 手順に落とす:停止作業は①分離→②ロック&タグ→③無電圧確認→④一時接地→⑤近傍保護→⑥標識。
- 訓練&認可:附属書IIIに沿った訓練+会社の認可。高電圧は単独作業不可。
- 証拠を残す:単線図・記録・検査報告を常に最新版に保つ。
これダメ/これOKの感覚
- ダメ:活線でいきなり触る、自動再閉路を切らない、標識なし、絶縁未検査工具、電気室を倉庫化。
- OK:遮断を最優先、作業前ツールボックスミーティング、二重チェック(無電圧測定+一時接地)、距離管理(附属書II)、復電前の撤去確認。
6.3 最低限の用語
- 管理区域(ZC):許可者のみ立入可の要注意エリア。
- リスク区域(ZR):追加の技術・装備が必要な危険エリア。
- 一時接地:作業中、装置と人体の電位差を無くすため等電位化する仮の接地。
- EPC/EPI:集団保護>個人保護が原則。
6.4 超シンプル・現場チェックリスト(抜粋)
- 作業は停止が基本。止められないなら高リスク扱いで手順厳格化。
- ロックアウト/タグアウト(LOTO)は誰が・何を・いつ実施したか記録。
- 無電圧は計測器で測る(たぶん止まってるはNG)。
- 一時接地は規定位置へ確実に。
- 自動再閉路は必ず無効化して標識。
- 工具・EPIは電圧等級と試験有効期限を確認。
- 作業指示書と標準手順は現場で読める場所に。
- 記録更新(単線図・検査・訓練)をその日のうちに。
7) 実務の落とし穴と対策(プラスα)
- 設計段階の配慮不足 → 後工程の安全コスト増。遮断器選定・表示・インターロック・一時接地点の設計時組込みで“安全を作り込む”。
- 文書の棚ざらし → 現場が見ない=効果ゼロ。現場で使える短冊版SOPとOS(作業指示)を常備。
- 訓練の形骸化 → NR-01整合後は有効期限/再訓練トリガーが明確。異動・長期離脱・設備大改造は再訓練。
- 高電圧単独作業 → 明確に禁止。通信手段の常時確保も必須。
8) 出典(主要一次情報)
- 政府公式:NR-10ページ(2025年6月2日更新)(制定経緯・改正履歴・現行本文PDFリンク)。
- 現行NR-10本文PDF(gov.br配布版)。
- SIT Portaria nº 787/2018(NRの適用整理・統一)。
- Decreto nº 9.759/2019 & Decreto nº 9.944/2019(CTPPの失効→再設置・再番号付)。
- 規制アジェンダ(2023–2025)でNR-10の総合見直しを明記。
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