概要(定義と原理)
ショットピーニングは、部材表面に小さな球状のショット(鋼球、ガラスビーズ、セラミック等)を高速で衝突させることにより、表面層に塑性変形を生じさせ、圧縮残留応力を導入する冷間加工プロセスです。これにより、表層の加工硬化(変形による硬化)や残留応力プロファイルの改良が得られます。
主な効果
- 疲労特性の改善
- 表面に導入される圧縮残留応力は、表面起点のき裂形成を抑制し、疲労寿命を向上させることが多くの研究で示されています。効果の大きさは材料種・処理条件・応力状態に依存します。
- 応力腐食割れ(SCC)耐性の改善
- 溶接や熱処理で生じる引張残留応力を低減・覆すことで、応力腐食割れの発生しやすさを低減できる場合があります(材料・環境・応力に依存)。
- 表面硬化(加工硬化)
- 衝突による塑性変形で表層の転位密度が増え、局所的に硬さが上がります(幅は処理条件・材料で変わる)。
- 表面形状の変化が潤滑性・摩耗特性に寄与する場合がある
- ショット痕による微小な窪み(ディンプル)が潤滑油の保持を助け、摩耗挙動に影響を与えるという実務報告や解説があり
管理・品質指標(プロセス制御)
- Almen試験(Almen strip):ピーニング強度(Peening intensity)を管理する代表的方法で、SAE J443 等の推奨手順があり、プロセスの再現性確保に用いられます(Almen曲線・飽和点等の概念)。
- 管理項目にはショット材の種類/硬度/サイズ、投射速度、距離、角度、照射時間(被覆回数)などが含まれます。これらが残留応力深さや硬化量、表面粗さに影響します。
ショット材の代表例(用途別)
- スチールショット/スチールグリット:高耐久・一般金属部品向け。
- セラミックショット:アルミや軽金属部材での使用例(異物混入や導電性考慮)。
- ガラスビーズ:仕上げ用途(より滑らかな表面)に用いられる。
(各選択は材質・要求特性による。)
派生/代替ピーニング技術
近年、ショットピーニングに替わる、または補完する技術として研究・実用化が進んでいます。代表的なものは次の通りです。
- レーザーショックピーニング(Laser Shock Peening, LSP):レーザー誘発の衝撃波により深い圧縮残留応力を導入できる技術で、特に航空宇宙分野で注目されています。パラメータが残留応力プロファイルに影響します。
- キャビテーション・ウォータージェットピーニング / Cavitation Peening:高圧水流や気泡崩壊を利用してピーニング効果を与える手法。異物混入のリスクが低く、特定用途で疲労改善効果が報告されています。
これらの技術は、具体的な有効深さ・表面挙動・コストなどが異なるため、適用判断は材料・設計要件・工程条件に基づいて行う必要があります。
実務上の留意点(現場で必ず確認すべきこと)
- プロセスの制御と記録:Almen強度、ショット交換履歴、弾材管理、作業パラメータのログを保持する。
- 過剰ピーニングの回避:過度のピーニングは表面欠陥(亀裂誘発や過度の粗面化)をもたらす場合があるため、最適条件の評価が必要。
- 表面検査:ピーニング後の表面・微細亀裂・残留応力分布(必要時)を検査する工程を組み込む。
- 材料と熱処理の相互作用:基材の強度や前処理(焼入れ・テンパー等)によってピーニング効果や脆性のリスクが変わるため、材料仕様を踏まえたプロセス設計が必要。
適用分野(代表的な実用例)
- 航空機部材(高サイクル疲労対策)
- 自動車部品(歯車、サスペンション部品、スプリング等)
- 発電・プラント機器(配管、軸部材のSCC対策)
- 鉄道・輸送機器の重要部材
(用途は実績として広く確認されているが、各適用の効果は条件依存です。)
ショットピーニング加工により
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