テクニカルファイルとは
テクニカルファイル(Technical File)は、製品の安全性とEU法令への適合を証明するための技術文書一式 です。
製造者がCEマーキングを行うには、このファイルを準備し、当局から要求があれば速やかに提示できる状態にしておく必要があります。
含まれる典型的な情報は以下のとおりです。
- 設計資料(設計図、仕様書、CADデータ等)
- 計算資料(強度計算、熱設計、安全係数等)
- 試験・検査結果(耐久試験、電気安全試験、EMC試験など)
- リスクアセスメントの記録
- ユーザー向け文書(取扱説明書、警告ラベル、製造銘板)
つまり、テクニカルファイルは製品の「安全に関する証拠のまとめ」であり、製品ライフサイクル全体を通じてコンプライアンスを示す基盤 です。
保管義務
- 期間:最終製造日から10年間(最低)
- 責任主体:製造者または欧州域内の認定代理人(Authorized Representative)
- EU加盟国の市場監視当局から要求があれば、遅滞なく提出できるようにしておく必要があります。
👉 注意:IoT機器やソフトウェアを含む製品については、サイバーレジリエンス法(CRA: EU 2024/2847) により追加的なセキュリティ関連資料(脆弱性管理手順、アップデート方針など)を含めることが求められます。
含まれるべき主な文書
指令や規則によって異なりますが、一般的には以下が必要です。
- 製品の一般的な説明(用途、モデル、型番)
- 適用されるEU指令・規則の一覧(例:機械指令、EMC指令、低電圧指令、RoHSなど)
- リスクアセスメント結果(危険源、リスク低減策、残留リスクの説明)
- 設計・製造図面(構造図、回路図、フローチャート)
- 計算・解析資料(強度、熱、安全設計に関する解析結果)
- 試験報告書と証明書(EMC、機械試験、電気試験、ノーティファイドボディ発行の証明書など)
- ユーザー情報(取扱説明書、警告ラベル、製造銘板サンプル)
- 適合宣言書(DoC: Declaration of Conformity)
実務での効率的な準備手順
テクニカルファイルの作成は時間を要しますが、以下のプロセスを踏めば効率化できます。
- 該当するEU法規を特定
- 製品カテゴリごとに適用される指令・規則を確認する(例:2006/42/EC 機械指令、2014/35/EU 低電圧指令)。
- リスクアセスメントの実施
- EN ISO 12100 などの整合規格に基づいて危険源を洗い出し。
- 資料リストを作成
- 設計部門、品質保証、調達部門から必要データを収集するチェックリストを整備。
- 試験・検証の実施
- EMC試験や安全試験を外部試験所で行い、レポートを取得。
- 不足情報の洗い出し
- 設計資料・取説・ラベル・銘板の不備を最終チェック。
- 文書管理ルールを確立
- 改訂履歴管理、言語要件(取扱説明書は販売国の言語で提供)を確認。
実務者向けのポイント
- ファイル作成はCEマークの貼り付け直前では遅すぎる
→ 製品開発初期段階から並行して資料収集を進める。 - 部門間連携が不可欠
→ 設計、品質、法務、調達、営業の情報を横断的にまとめる必要あり。 - デジタル化を推進
→ SBOM(ソフトウェア部品表)や電子ファイル管理システムを活用するとCRAにも対応可能。
まとめ
テクニカルファイルは「書類作業」ではなく、製品安全・コンプライアンスの根拠です。
市場監視当局が求めるのは「形式」ではなく「中身」であり、事故や訴訟時の防衛資料としても機能します。
👉 実務担当者は、早期にEU法規の適用範囲を明確にし、設計段階からテクニカルファイルの整備を進めることが、結果的にCEマーキングの遅延防止とコスト削減につながります。
MSDコンサルティング
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