自己認証(モジュールA)によるCEマーキング

機能安全

自己認証(Self-Certification)とは、適合性評価において認証機関(ノーティファイドボディ)を介さず、製造者自身が自らの責任で製品の適合性を証明する手法です。EUにおける適合性評価モジュールのうち「モジュールA(内部生産管理)」に分類され、比較的リスクが低い製品に適用されます。

製造者は、EU指令や規則の要求事項に従い、設計から製造までのプロセスを文書化・管理し、その結果としてCEマーキングを製品に貼付することが可能です。つまり、自己認証は「製品が基準を満たしている」ことを自社で立証し、EU市場に投入できる強力な仕組みですが、同時に製造者に大きな責任が課せられる制度でもあります。


自己認証が認められる条件

自己認証が可能なのは、リスクが低い製品カテゴリーに限られます。たとえば以下のようなケースが代表的です。

  • 低電圧指令(LVD)に該当する一般的な電気製品(例:家庭用電化製品)
  • EMC指令に該当する電子機器(例:PC周辺機器、通信機器)
  • 玩具指令に該当する一部の製品

逆に、高リスク製品(例:医療機器、圧力容器、火災安全設備、リフトなど)では、ノーティファイドボディによる型式試験や生産管理の監査が義務付けられており、モジュールAだけでの自己認証は認められません。


適合性評価モジュールの全体像

EUの適合性評価には複数のモジュールが用意されています。製品のリスクレベルや適用指令によって組み合わせて使うのが原則です。

  • モジュール A – 内部生産管理(自己認証)
  • モジュール B – EC型式検査(第三者による型式試験)
  • モジュール C – 型式適合性評価
  • モジュール D – 生産品質保証
  • モジュール E – 製品品質保証
  • モジュール F – 製品検証
  • モジュール G – ユニット検証
  • モジュール H – 完全品質保証

技術者にとって重要なのは、「自社製品は本当にモジュールAだけでよいのか?」を正確に見極めることです。誤った適合性評価を行えば、市場監視当局による制裁やリコールのリスクが発生します。


自己認証プロセスの実務ステップ

自己認証は単に「自分で判断する」ものではなく、以下のプロセスに従って体系的に進める必要があります。

ステップ1:該当する指令・規則を特定

CEマーキングは全製品に必要なわけではありません。対象となるのは、電気機器、機械、医療機器、玩具、圧力機器、PPE、無線機器、建設製品など、EUが定める20以上の製品分野指令・規則のいずれかに該当する場合のみです。

ステップ2:適用要件を特定

各指令には「必須要件(Essential Requirements)」が定められています。例えば機械指令では「安全設計」、EMC指令では「電磁両立性」が必須項目です。整合規格(EN規格)を活用することで要件適合を証明しやすくなります。

ステップ3:適合性評価ルートを決定

自己認証(モジュールA)が可能か、それとも第三者の関与が必要かを判断します。例えば家庭用ドライヤーはモジュールAで足りますが、医療用注射ポンプは必ずノーティファイドボディの審査が必要です。

ステップ4:製品の評価・試験

指令で求められる試験(電気安全試験、EMC試験など)を実施し、製品が基準を満たすことを立証します。社内試験だけでなく、第三者試験所のレポートを取得しておくと信頼性が高まります。

ステップ5:技術文書の作成と保管

いわゆる「テクニカルファイル」を整備します。設計図、回路図、リスクアセスメント、試験報告書、ユーザーマニュアルなどが含まれ、製造終了から10年間はEU域内で保管する必要があります。

ステップ6:EU適合宣言とCEマーキング貼付

最終的に「EU適合宣言(DoC)」を作成し、製造者または代理人が署名します。その上で製品にCEマーキングを貼付し、正式にEU市場で販売可能となります。

まとめ

自己認証(モジュールA)は、製造者にとって効率的かつ柔軟な適合性評価手法ですが、その一方で「自由と責任は表裏一体」です。適切にプロセスを踏み、十分な文書を残していなければ、市場監視当局から指摘を受けたり、リコール・販売停止措置を受けるリスクがあります。

会社で製品開発に携わる技術者にとっては、「どの製品が自己認証可能かを正しく見極める力」と「技術文書を適切に整備する実務力」が欠かせません。これらを意識すれば、CEマーキング対応を効率的に進め、安心してEU市場に製品を投入できるでしょう。

 

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